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「……さん。結木さん。」
「‼︎」
考えごとをしていたら、声をかけられていたことに気づかなかった。
前の席の花本さんが、プリントをまわしてくれていたみたい。
「ごめん……ありがとう。」
お礼を言うと花本さんはちょっとだけおどろいたような顔をした。
「結木さん、なんか今日、ふんいきちがうね。」
「え……。」
「考えごと? ちょっとヘンな顔してたよ。」
思いがけず話しかけてもらって、言葉につまる。
ふんいきがちがうなんて言われたら、なんて返せばいいんだろう?
ふだん、おしゃべりすることに慣れてないから、プチパニックになっちゃう。
「そ、そんなことないよ……。」
ようやく小さな声でそう言ったら、花本さんは苦笑いして前を向いちゃった。
……今の、たぶん失敗だよね。
あーあ。どうして笑顔でハキハキ話すことができないんだろう。
これじゃ、幽霊よりわたし自身が怖がられちゃうよ……。
この性格、直したいなぁ。
真ん中のほうの席でおしゃべりしながら笑っている八神くんが、ちょっとだけうらやましく思えた。
昼休み。
すごい勢いで給食を食べ終えたらしい八神くんは、わたしがちょっとだけ苦手な牛乳まで飲んでくれた。
いつも食べるのがおそいから、正直ありがたい。
ありがたいんだけど、みんなの視線が痛い……!
いつもの倍ぐらいのスピードで給食をすませたわたしは、チクチクとした視線を感じたまま八神くんの背中をおいかけた。
「さて、どうしよっか。いっしょに校内一周でもしてみる?」
「えっ⁉ それはちょっと……。」
ろう下を歩きながらそんな提案をされたから、なんとか説得して人気のない校舎の四階へ。
八神くんって、自分が人気者なのわかってないみたい……。
「霊のしわざだとしたら、人がたくさんいるところにはでないんじゃないかな。」
「たしかに。今までも、ヘンなことが起きるのは俺一人のときだったかも。」
「ヘンなこと……。引っぱられたり、何もないのにつまずいたりしたんだっけ。」
うん、とうなずく八神くんの後ろ姿をながめながら考える。
他に人がいなかったなら、「だれかのしわざ」っていうのは考えにくいよね。
やっぱり、霊?
でも、なんで八神くんばかり何度もいたずらされてるんだろう。
昨日のネコは、たまたまその場所に住みついていて。
わたしたちがあそこで立ち止まっていたから、じゃれてきたんだと思うんだけど。
「どこか通るたびにつまずいたりする、ってわけじゃないんだよね?」
「うーん。とくに、場所は関係ないかなぁ。」
「そっか。だとしたら……。」
八神くん自身に、霊がついている?
たとえば、家族の霊が見守ってくれてるとか……。
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