2 校内散策と、白い手

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家族のことを聞いてみたら、八神くんは眉をキュッとひそめた。 「俺の家族、みんな元気だよ。」 「そうだよね、ごめん……。」 「てか、見守ってくれてないじゃん。イヤがらせされてるし。」 「たしかに、そうだね。」 そんな話をしながら、四階のろう下をいったりきたり。 八神くんがいろいろな話題をふってくれるから、不思議と沈黙になることはない。 「てか、今はほかのユーレイ見えてたりすんの?」 「ううん、学校の中ではほとんど見えたことないよ。登下校のときに、動物を見ることが多いんだ」 「へぇ。動物って、なんでだろうな」  八神くんの問いに、わたしは苦笑いを返す。  ふしぎなものが見えはじめた頃、わたしは 図書室で「お化け」や「幽霊」について調べたことがある。 そこに書いてあった知識で印象的だったのは「幽霊は、自分が亡くなった場所に住みついたり、思い入れのある人に取りついたりしすることが多い」ってこと。 わたしたちが通っているこの学校ってまだ新しいみたいだし、学校の中で誰かが亡くなったなんて話は聞いたことがない。だからきっと、学校に住みついている霊はいないんだと思う。  つまり……登下校で見る動物の霊は、車にはねられちゃったり、ほかの動物に襲われたりしてその場所で死んじゃったんじゃないかな、って思ってるんだ。  ……それを考えると、いつも胸がチクンと苦しくなるんだけどね。 「……結木さん?」 「えっ?」  ぼーっとしていたのか、八神くんは心配そうにこっちを見てた。  しまった。わたし、あれこれ考えて、目の前の相手を置き去りにしちゃうことがよくあるんだよね……。  あやまろうとしたら、……なぜか先に八神くんの方が頭を下げた。 「ごめん。ユーレイ見えるって、俺はすげーって思ってたけど……いいことだけじゃないよな」 「えっ……」 「無神経? だった。まぁ、もう俺の悩みの件は相談しちゃってるんだけど……」 「そんな、あやまらないでよ」 あわてて言うと八神くんは頭をあげたけど、真剣な顔でわたしの目を見てまた「ごめんな」って言ったんだ。  今まで、クラスの誰かに心配なんてされたことがなかった。  みんなとあんまり話したことがないから当たり前かもしれないけど……。  八神くんの目にうつってるわたしは、自分でも見たことがないような顔をしてる。 「じゃあ別の話しよーぜ。結木さんって、何委員? 俺は体育だけど。」 「わ、わたしは、栽培委員だよ。」 「そうなんだ。植物好きなの?」 「うん……なんか、お世話したりするのが好きなの。飼育委員と迷ったけど、植物もいいかなって。」 「ふぅん。」 ろう下のはしっこ、使われていない資料室の前。 八神くんはぴたっと立ち止まって、こっちを見た。 「……八神くん? どうしたの?」 「結木さんってさ、話しかけたらけっこうしゃべるよね。」 「えっ⁉︎」 それって、しゃべりすぎっていう意味⁉︎ 八神くんが聞き上手だから、ついいろいろ答えちゃったけど、うるさかったのかな。 ごめん、って言葉が口から出かけた、そのとき。
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