⑯ 見慣れぬ背中

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 もともと声優をやっていたという人で、すでに固定のファンもいて、話題はあっという間にそちらに流れていった。  こういった世界は移り変わりが早いものだ。  ホテル生活にも慣れてきたが、そろそろ元に戻ってもいいかと思い始めていた。 「香坂先生ー!」  のんびり廊下を歩いていたら、担任するクラスの生徒に声をかけられた。  今は週末に行われる学園祭の準備で、生徒達は大忙しだ。  今年の出し物は喫茶店をやると聞いていた。飲み物やお菓子は市販のものをそのままセットにするだけなので、大した準備も必要ないと香坂は甘く考えていた。 「それは衣装か……、本当に作るんだな。女子は制服にメイクで男子は……」 「コスプレ! うんと怖いやつね」 「それで、俺もゾンビだっけ? 破れたシャツでも着て顔を緑に塗ればいいのか?」  普通の学生喫茶をやってもつまらないということで、クラスの実行委員が提案したのはホラー喫茶だった。  女子は制服のまま、血糊をつけて女子高生ゾンビ。男子はボロボロの衣装を着てゾンビメイクをするということに決まった。  教室内をそれっぽく飾って暗くするのはもちろんだが、担任も参加した方がウケるという話になり、出てくれとお願いされてしまった。 「仁ちゃんはね、特別なの用意しているから楽しみにしておいて」 「ははは……、あんまりひどいのはやめてくれよ。いちおう先生にだって小ちゃいプライドってもんがなぁ……」 「大丈夫、大丈夫、任せておいてー」  衣装担当の生徒達は楽しそうに笑いを噛み殺した顔をして走って行ってしまった。  教師の勘として、これはお笑い担当みたいな服を着せられそうだなと香坂は頭をかいて苦笑いをした。 「陽太のクラスは、手作り石鹸のお店だっけ……、どうなってるかな。ちょっと覗いてみようかな」  自分のクラスからは手伝わなくていいと追い出されるので、仕方なく納見のクラスにでも顔を出してみようと香坂はくるりと向きを変えて歩き出した。  すると校内を歩く生徒の中に、やけに目立つ後ろ姿が目に入った。  長い襟足の毛先だけ金色に染まっていて、見た目に関してはそれなりに校則の厳しい学園では、明らかに問題になりそうだった。  香坂はいつだったか、自分のマンションの廊下ですれ違った子のことを思い出した。
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