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ハンカチを拾ってあげたその子も同じように毛先だけ染めていた。
そこでフッと嫌な予感がした。
制服は着ているが、どう考えても見覚えのない生徒。
しかもそれが、一度だけ接触のあった子によく似ている。
納見の周りに何か良からぬ影を感じていたが、それがもしかしたら、熱狂的なファンの子に、もっと早めに自宅を突き止められていて、香坂のマンションまで知られていたかもしれない。
あの日、自宅にいなかった納見が、通っている恋人の家にいるかもしれないと、見に来ていたのだとしたら……。
そして家の前で待ち伏せていても会えないから、職場に忍び込んだ。
その可能性が思い浮かんだら離れなくて、頭の中で危険信号が鳴り響いて香坂の背中を押した。
(呼び止めて、俺の思い違いならそれでいい。でももし、校舎にまで部外者が入り込んでしまったら、大事になってしまう)
生徒の波をかき分けて、小走りで例の子に近づいた香坂は、ちょっといいかなと声をかけて、肩に軽く手を置いた。
その子がゆっくりと振り向くと、香坂を見て驚いたように目が大きく開いた。
目元が印象的で綺麗な顔をした男の子。思った通り、あの時ハンカチを手渡した彼だった。
やはり、何度考えても生徒の中で、見た覚えがない顔だった。
「間違っていたらごめんね。君はうちの生徒じゃないよね?」
大きく開かれていた目が、キリッと細められた。
そこに、敵意の色を見た香坂はぐっと足に力を入れた?
「アンタさ……agehaの何なの?」
その台詞が聞こえたら、もう肯定したとしか考えられなった。
緊張で手からじんわりと汗が出てきたのを感じた。
とにかく自分がどうにかしないといけない。
香坂は息を飲み込んだ後、逃さないように手に力を込めて、話ができるところへ誘導することにした。
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