⑯ 見慣れぬ背中

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 ハンカチを拾ってあげたその子も同じように毛先だけ染めていた。  そこでフッと嫌な予感がした。  制服は着ているが、どう考えても見覚えのない生徒。  しかもそれが、一度だけ接触のあった子によく似ている。  納見の周りに何か良からぬ影を感じていたが、それがもしかしたら、熱狂的なファンの子に、もっと早めに自宅を突き止められていて、香坂のマンションまで知られていたかもしれない。  あの日、自宅にいなかった納見が、通っている恋人の家にいるかもしれないと、見に来ていたのだとしたら……。  そして家の前で待ち伏せていても会えないから、職場に忍び込んだ。  その可能性が思い浮かんだら離れなくて、頭の中で危険信号が鳴り響いて香坂の背中を押した。 (呼び止めて、俺の思い違いならそれでいい。でももし、校舎にまで部外者が入り込んでしまったら、大事になってしまう)  生徒の波をかき分けて、小走りで例の子に近づいた香坂は、ちょっといいかなと声をかけて、肩に軽く手を置いた。  その子がゆっくりと振り向くと、香坂を見て驚いたように目が大きく開いた。  目元が印象的で綺麗な顔をした男の子。思った通り、あの時ハンカチを手渡した彼だった。  やはり、何度考えても生徒の中で、見た覚えがない顔だった。 「間違っていたらごめんね。君はうちの生徒じゃないよね?」  大きく開かれていた目が、キリッと細められた。  そこに、敵意の色を見た香坂はぐっと足に力を入れた? 「アンタさ……agehaの何なの?」  その台詞が聞こえたら、もう肯定したとしか考えられなった。  緊張で手からじんわりと汗が出てきたのを感じた。  とにかく自分がどうにかしないといけない。  香坂は息を飲み込んだ後、逃さないように手に力を込めて、話ができるところへ誘導することにした。  □□□
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