⑯ 見慣れぬ背中

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 頭を下げて大きな声で謝る納見の姿は目立ってしまい、カフェの店内は静かになって、人々の視線が納見と香坂に集中してしまった。  香坂はフゥと息を吐いた後、周りには聞こえないように声を抑えて話し始めた。 「陽太、それは薄々気がついていたよ。そもそもDom性弱いやつがグレア放つなんてできないし、飲み会に残ってた人全員気絶させるなんて、強すぎるくらいだとしか思えない……。というかさ、俺、性が弱い方がいいなんて言ってたこともすっかり忘れていたよ。なんかそういうのどうでもいいくらい、……なんて言うか、陽太に夢中だったから」  最後の方は真っ赤になりながら、話してくれた香坂が可愛すぎて、納見もつられて赤くなって、そのまま抱きしめたくてたまらなくなった。 「ありがとう……仁、俺のことを好きになってくれて」  いつの間にか香坂が乗せてくれていた手は、納見の方が上になってガッチリと掴むことになっていて、指のはらで香坂の手の甲を優しくなぞった。 「んっっ……」  肌の感触にわずかな快感を覚えたのか、香坂から甘い声が漏れた。 「陽太……、今日この後は予定はある? うちに来ないか?」  目元を赤らめた香坂が物欲しげな目で誘ってきたので、納見の頭はクラクラしてしまった。  その薄くて柔らかそうな唇に意識は集中してしまい、どくどくと鳴る心臓の音を感じながら素直に頷こうとしたところで、大事なことを思い出した。 「ああっっ!! そうだ!」  突然納見が大きな声を上げたので、香坂は驚きで目を瞬かせてた。  少し前は見られていたが、興味を失ったように周囲の視線は散っていた。  それがまた再び注がれることになってしまった。 「眺めがいいけど、毎日じゃ飽きるかな。好きに使っていいって言われているから。もともと倉庫みたいになってるから物が多くてごめんね。あっ、クリーニングはそこの番号にかけるとやっておいてくれる。こういうところはホテルって便利だよな」  手短に使い方を説明して歩くと、納見は口を開けたまま、魂が抜けたみたいな顔で部屋の中心に立っていた。 「言葉が出ないんだけど、仁のお母さんって本当何者?」
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