煙のような恋

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 わたしは妹が嫌いだ。  生意気でムカつく妹が嫌いだ。  わたしより可愛くて、わたしより友だちも多い。クラスでも人気があるそうだ。  家の中ではいつも偉そうにしていて、二歳年上のわたしの意見なんて聞きもしない。  はいはい、と言ってバカにしたような態度を取る。マジでムカつく。 「ねえ、ご飯のときぐらいスマホ触るのやめたら?」  今日の夕食だってそうだ。凛花はご飯を少し食べてはスマホを覗き込んでふふふ、と笑う。また少し食べて、ふふふ。 「聞いてる?」  わたしが少し怒気を強めて言うと、凛花は毎度同じように、「はいはい」とだけ答えた。 「いや、聞いてないじゃん。行儀悪いからスマホ触るなって言ってるでしょ」 「もう、うるさいな。いいじゃん別に、減るもんでもないし」  中学生がどこで覚えたのか、そんな言葉で反論してきた。お父さんはまだ仕事で帰って来ない。お母さんを見ると、テレビを見ながら声を出して笑っていた。はぁ、ダメだこれは。 「お姉ちゃんさ、私に嫉妬してるんでしょ? 私にイケメンの彼氏がいるから」 「はあ? なにそれ。別にそんなわけないし。勝手に決めないでよ」 「いいよ、強がらなくて。お姉ちゃん、彼氏いないもんね」  人をバカにしたような顔でおちょくってくる。マジで死ねばいいのに、と思う。 「……いるよ、彼氏」  それが咄嗟に出た嘘であることは誰よりも自分がわかっていた。 「え? うそ? 聞いてないよそんなの。嘘でしょ?」 「なんでそんなこといちいち言わないといけないのよ。わたしにだって、彼氏ぐらいいるよ」 「じゃあ、写真見せてよ」 「写真は、まだない」 「なんで?」 「……付き合った、ばっかりだし。それに、彼はあんまり写真を撮りたがらない」 「ふーーん。へーー。そーなんだー」    明らかに信用していないその顔つき。 「学校の同級生?」 「うん、そうだよ」 「ふーん。普通一枚くらい写真撮るけどなー」  お母さんの笑い声に隠れるように、凛花はそう呟いた。完全に怪しんでいる。 「えっと、うん、どうだろ。彼氏、部活とかで忙しいし」 「じゃあさ、明日とは言わないよ。そうだなぁ、今週中。今週の日曜日までに一枚写真撮ってきてよ。ツーショットね。別に簡単でしょ? 本当に彼氏がいるんなら」  口角を片方だけ上げて、こちらを嘲笑う。嘘はもうバレバレ。脇汗が滲んできたわたしをよそに、妹はスマホを持って席を立った。 「あれ? もうごちそうさま?」  会話に参加していなかったお母さんが、急に話しかける。 「うん。もうお腹いっぱい」  凛花はそのままソファへ行き、スマホを触り続けていた。 「お姉ちゃん、約束だからね。今週中」  振り返ってそんなことを言う。 「いいよ」  強気になって言ってしまった言葉を後悔している。部屋に戻ってから頭を抱えた。  なんであんなことを言ってしまったのか。  わたしに彼氏などいるはずもない。クラスの男子のことを想像して、一番のイケメンは誰か探した。浦井くんか、金貝くん、あとは中河くんかな。一度も話したことないけど、わたしから告白したらいけるかな。  いやいや、無理無理。そんなの絶対無理。  今日が水曜日。土日を含めて、あと五日。  どうやって彼氏を作るのよ。
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