闘う二人の新婚生活 2

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闘う二人の新婚生活 2

 ガラガラと薄闇を切り裂く車輪の音を立てて、セラード家の馬車は一路王宮の夜会に向かっていた。  結婚して初めて夫婦で参加する夜会。無言の馬車内は重苦しい空気で満たされ、アニエスは敗北感に打ちのめされていた。 (どうしてなの……)  長い脚と腕を組み、窓の外にむっつりと視線を向けているラルク。間違いなく選んだはずだった。だっさいアマガエルみたいな緑色の礼服を。 (どうして完璧に着こなすの……?)  だっさいはずのアマガエル色は、背の高い精悍な美貌の騎士のせいで、流行最先端かのように洗練されて見える。もうどうしようもなかった。ラルクの美貌が憎くてたまらない。自分も妻としてアマガエル色になったというのに。 (それに……)  アニエスはちらりとラルクを盗み見た。彫りの深い顔立ちの陰影が際立ち、今日もアニエスの心拍数の限界を試そうとしている。 (私の努力はなんだったの……!?)  間違いなく色気が駄々漏れて、精悍さに磨きがかかっている。なんなら前よりかっこいい。アニエスは唇を噛んだ。本当に頑張った。厨房へ日参しシェフから教えられながら、手作り料理を大量に作ったのだ。   『頑張って作ったのよ? 残さず食べてね!』  貴族家ではありえない手作り料理。それを貴方のためだけに作ったと恩着せがましくアピールをして、毎日残さず食べさせた。その苦労は全くの徒労に終わった。 (完璧な作戦だったはずなのに……)  かっこよすぎるのが良くない。夜会までに大量の料理で、肥えさせる計画はどう見ても失敗としか言えなかった。アマガエル色なのに、目眩がするほどかっこいいのが何よりの証拠。アニエスは敗北感に打ちのめされながら、もう祈るしかなかった。 (車輪外れろ! 車輪外れろ! 車輪外れろ!!)  こんなイケメンを夜会に参加させるなど、女が群がるに決まってる。アニエスは俯いたまま、呪詛のように車輪が外れることを祈り続けた。 ――――――  窓の外をじっと見つめるラルクは、暗澹たる絶望感に沈んでいた。 (なぜなんだ……)  絶対に誰も選ばないと分かる、ヤバめのアマガエル色。下品な玉虫色と相当迷った。 (なぜ美貌が際立つ……)  女神は何色を着ても女神。肌は絶対出すなという指示通り、全身ヤバいアマガエル色。それなのに輝く赤毛は美しく、どう見ても薔薇の女王でしかない。完璧なスタイルの前に全てが水の泡にされている。 (おまけに……)  ラルクは横目でアニエスを確かめる。今日も一分の隙きもない完璧な美女っぷり。いっそ拝みたい。ヤバめのアマガエル色さえ神々しく見える。 (カロリーはどこに消えた? 胸か……!?)  太るどころか匂い立つような妖艶な色気と美貌で、心と下半身にダイレクトアタックをかましてくる。既に瀕死だ。  ラルクは悔しさに拳を握った。休憩時間の度に人気のスイーツ店に走り、大量の菓子を買い漁った苦労は何一つ報われていない。 『お前のために用意した。あまり日持ちはしないからすぐに食べろ。』  使用人に分けないように、夜の寝室で毎日渡した大量のスイーツは仕事を放棄した。それどころか手料理に胃袋まで掴まれて、もう後がない。ラルクは絶望感に浸りながら、最終手段に打って出た。 (溝にハマれ! 溝にハマれ! 溝にハマれ!!)  こんな極上の美女を夜会に放り込めば、結果は火を見るよりも明らかだ。ラルクは奥歯を噛みしめ、怨嗟を込めて溝にハマって走行不能になることだけを、ただひたすらに祈った。  スイーツを買ってくる夫に、手料理を振る舞う妻。愛し合う微笑ましい夫婦。本来の意図とはだいぶズレた誤解を受けながら、二人は失意の内に夜会の日を迎えた。  心の安寧のために多大な労力を費やした、太って不細工作戦は完全な失敗に終わった。呪詛も怨嗟も届くことはなく、馬車は何事もなく夜会の場に到着する。  美貌の二人はヤバめのダサいアマガエル色も、妙に着こなしつつ会場へと踏み入った。それでもアマガエル色はアマガエル色。  せめてなるべく目立たないようにという祈りもむなしく、揃いのアマガエル色の夫婦は衝撃的な色合いで大注目を浴びている。  アマガエル色が目立たない奇跡なんて、起こるわけがなかった。 ※※※※※  同期や同僚騎士団の面々に誘われ、ラルクは会場側面をぐるりと囲む中二階で不貞腐れながらグラスを傾けた。濃い琥珀の酒を煽っても、絶望感はそう簡単には飲み込めなかった。 「よう! ラルク。新婚生活はどうだ?」 「相変わらずいい女だよなぁ……マジで羨ましい……」  なんかヤバいアマガエル色だけど。 「で、どうなんだよ? 夜もやっぱりすごいのか?」 「それな! めっちゃ気になる! 教えろよ!」  血気盛んな若い男が集まると、決まって始まる下世話な話題にラルクは青筋を立てグラスを握りしめた。 (すごいのかだって? ふざけんなっ!!!)  ぐいっと残りを飲み干し、ダンッとグラスを叩きつけ、ラルクは下品にからかう同僚達を鬼の形相で睨みつける。 (全戦全敗だよ!! ちくしょーが!!)  声で肌で体温で匂いで動きで。アニエスという存在全てで全力で惑わしてくる。必死で繋ぎ止めた理性も繋がった瞬間、呆気なく崩壊して夢中でアニエスに耽溺する毎日。  堕とすはずが完全に堕とされている。思い出しただけでいきり立つ。抱けば抱くほどますます悦くなるアニエスに、ラルクの美貌が猟奇的に歪んだ。 「お……おい……ラルク……マジになるなよ……な?」  殲滅を決意したかのようなラルクの表情に、同僚達は執り成すように繕った。 (夜まで最高とか絶対に悟らせるわけにはいかない!!)  なにせ極上の美女なのだ。こいつらは間違いなくアニエスで妄想してやがる。妄想されるのさえ我慢ならないのに、現実はその遥か上をいくことなど、絶対に教えるわけにはいかない。 「……セラード家の女で下品な想像をするとか、許されると思ってんのか? 家門の名に賭けてこの場でわからせてやってもいいんだぜ?」 「……わ、悪かったよ……新婚へのからかいの常套句だって……な?」  ラルクの座った眼に同僚達は、顔を見合わせ卑下た笑いを引っ込める。苛立ちのままにラルクは酒を煽ると、乱暴にグラスを叩きつけ無言でその場を立ち去った。 「なぁ、ラルクってさ……」 「だよな……」  残された同僚たちは、囁き合いながらその背中を見送った。 ―――――  同級生や友人に囲まれ、アニエスは女性用の一角に腰を落ち着けた。イライラと回すワイングラスからの芳香も、抱えた敗北感を薄れさせてはくれなかった。 「久しぶり、アニエス。新婚生活はどうなのよ?」 「ラルク、素敵ね。ますますかっこよくなってない?」  なんかだっさいアマガエル色だけど。 「ねえねえ、それで、どうだったの? ベッドでもラルクは男前?」 「やだぁ~! 直球~! でも気になる。まさか見掛け倒しなんてことはないわよね?」  スプーンが床に落ちても面白い、若い女の集まりの方がえげつない話をしがちなものだ。予想通りの話題を切り出され、アニエスは瞳に怒りの焔を立ち上らせた。 (見掛け倒し? 冗談にしても笑えないんだけど!!)  イライラと回していたグラスを一気に傾け、空のグラスをテーブルに拳ごと叩きつける。俯けていた顔を上げて、口角を凄絶に吊り上げると好奇心に目を輝かせた友人達を見回した。 (優秀過ぎて息も絶え絶えよ!!!)  声で筋肉で体温で匂いで動きで。ラルクという存在全てで全力でかき乱してくる。主導権を握ろうにも、最初から最後まで翻弄されっぱなしの毎日。  堕とすはずが完全に堕とされている。もう思い出しただけで身体が熱くなるほど、ラルクとの夜に溺れている現状を、正直に話すわけにはいかなかった。 「ちょ、ちょっと、アニエス……じょ、冗談よ? 本気にしないで?」  アニエスの凄絶な瞳の色に、友人たちは誤魔化すように笑みをひきつらせた。 (ベッドでも超絶有能なんて、貴女達に教えるわけないじゃない!!)  絶対に澄ました顔の下でラルクとのベッドを想像しているはずだ。だってあんなにかっこいい。願望を持つことさえ許せないのに、現実は妄想を凌ぐ優秀さだなど絶対に悟らせるわけにはいかない。どうにかベッドに誘い込むに決まってる。 「……家門の名を貶めるような下品な話はすべきじゃない。騎士の品位を疑われるような会話に、加わる気は微塵もないから!」 「そ、そうよね……つい学生気分が抜けなくて……もうアニエスは奥様だもんね……」  きつめの美貌をにっこりと大げさなほど微笑ませるアニエスに、友人達は唾を飲み込みたじろいだ。機嫌を伺うような笑みに見送られながら、アニエスは怒気を浮かべたまま立ち上がって歩き出した。 「ねえ、もしかして、アニエスってさぁ……」 「やっぱりそうよね……」  怒りのオーラを立ち上らせ、歩いていく背中を見送りながら、友人たちは顔を見合わせた。 ※※※※※  もう何に腹を立てているのかも分からないまま、アニエスはアルコールの置かれているテーブルに突進する。怒りのままに煽り、三つ目のグラスに手をかけた手首を掴まれた。振り返った先に、仏頂面のラルクを見つけ、アニエスは泣きそうになった。そして怒りの原因を悟った。 (……全部、ラルクのせいよ……)  アマガエル色のくせに、息が詰まるほどかっこいい。アニエスを魅了するだけでは飽き足らず、周りの視線も吸い寄せている。それなのに一向に自分を好きにならない。いつだって自分ばかりが振り回されている。好きで好きで奪われないよう常に警戒しているのは自分だけ。 (むかつく! 貴方なんて家柄が良くて、将来性があって……ちょっと……かなりかっこいいからモテるってだけよ!! そういう下心込みなのよ! ラルク自身が本当に好きなのは私だけなんだから!! そんなことも分からないの!!)  睨みつけたラルクが、スッと手を差し出してきた。迷いなくアニエスも手を添える。さっさと踊って一刻も早く帰りたい。もう一秒だって誰かにラルクを見せたくない。手の平から伝わる体温に、喉奥が震える。好きで好きでたまらない。  俯きそうになった顔を昂然と上げ、導かれるままホール中央に歩を進める。挑むように向かい合い、アニエスは心の底から祈った。 (もういっそ禿げてしまいなさいよ!!)  つるつるぴかぴかのラルクの頭部を、自分ならより輝くように念入りに毎日手入れすることさえ厭わない。もう見た目なんかどうでもいいほど、こんなにも好きで仕方がない。アニエスがいつから好きでいると思っているのか。  目の前の自分を一向に好きにならない男を睨みつけ、アニエスは大きくステップを踏み出した。 ―――――  目的地もないまま、ラルクはイライラと階下に降りる。アルコールを求めて足を早めた先に、アニエスを見つける。心臓を鷲掴まれた気がして、息が止まった。アルコールでほのかに頬を上気させたアニエスは死ぬほど色っぽい。グラスに伸ばそうとする手を思わず掴んで止めた。これ以上とても人目に晒せない。 (もう、どうしろって言うんだよ……)  アマガエル色のくせに息が止まるほど美しい。一体何なのか。誰もがアニエスの美貌に振り返る。ようやく結婚してラルクだけの女にしたはずだ。なのに少しも自分のものになった気がしない。これほど惚れさせたくせに、アニエスはラルクに惚れる気配が微塵もない。 (アニエス、お前マジで腹立つな!! 自分が女神だって分かっててやってるだろ!? 下心と名門騎士家門の婿の座を狙う男なんかより俺の方がいいだろうが! 俺だけ見ろよ!! お前は俺だけの女になったんだ!! 俺がいつからお前に惚れてると思ってんだよ!!)  つないだ手のしなやかさに、胸がぐっと締め付けられる。切なく疼く内心に、俯きかけた顎を反らした。自分を弄ぶ女神を、ホール中央へ連れ出していく。もうアニエスが誰の女か周り中に知らしめないと気が済まなかった。 (さっさとぽよぽよになってしまえ!!)  鍛えまくった自分なら、ぽよぽよのアニエスだって余裕で抱え上げられる。とっくに容姿なんて些末に思えるほど、心底惚れている。ただただ愛しくて頭がおかしくなりそうだ。さっぱり自分に惚れない、目の前のむかつく女を睥睨し、ラルクは華奢な腰に手をかけた。  始まったヴェニーズワルツ。  ラルクは強く腰を引き付け、するりと背中に手を滑らせる。嫉妬させるアニエスに、ちょっとした意趣返しのつもりだった。  ぞくりと背筋に官能が駆け抜け、アニエスが唇を噛んだ。睨み上げたラルクがニヤリと嗤ったことに腹を立てたアニエスは、大きく円を描くステップに合わせて、割り入ったラルクの下半身を太ももで撫で上げる。  ぐっと奥歯を噛みしめて睨みつけてきたラルクを、涼しい顔でアニエスがせせら笑った。性急なリズムに合わせて、どんどんと無言の攻防はヒートアップしていく。  騎士らしい切れのあるステップと、目立ちすぎるアマガエル色は大いに人目を引いた。鬼気迫る様子で大きくくるくる回る二人。周囲はその息の合った見事なダンスにため息を零した。  最後のステップを踏み終えるや否や、怒り心頭の様子で二人は盛大な拍手を振り切るようにして、憤然と帰宅の途についたのだった。   ※※※※※    御者を急かして帰り着いた自宅。私室で破り捨てんばかりに着替えを済ませると、アニエスは続き扉から夫婦の寝室へと乱暴に押し入った。ラルクの私室につながる扉から、ラルクも同じようにダスダスと寝室に踏み入ってくる。 「なんのつもりだ!! さんざん挑発しやがって!」 「こっちのセリフよ。好き勝手撫でまわしたのはそっちでしょう!!」  相手の挑発だと分かっていたのに、あっさりと火をつけられた敗北感に、二人は激高して睨み合った。自分だけが相手の些細な言動に、簡単に揺り動かされるのが悔しくてたまらなかった。 「男の視線を集めて楽しいか? いい加減既婚者の自覚を持てよ!!」 「なっ!? 貴方がそれを言うわけ? 言っておくけど据え膳食わぬは男の恥とか、私は絶対に認めないからね!!」 「言いがかりで話を逸らすな!!」 「言いがかり? じゃあ、ココはどうして準備万端なのよ!!」  酔いと嫉妬の勢いに任せて、アニエスは薄い夜着越しでもはっきりわかる、ラルクの立ち上がった太い肉棒を握り込んだ。 「……うぁっ!? やめろ!! 離せ!!」  これまた酔いと嫉妬で抱き潰してやると、いきり立っていた己を言いがかりの証拠とばかりに握られ、ラルクは息を詰めた。激高したアニエスが先端の先走りを塗りつけながら、ゆっくりと握り込んだ雄を責めたて始める。 「どの女に反応してこんなことになってるのかしらね?」  鬼の首を取ったように勝ち誇るアニエスが、上下に揺らす手の速度を速めていく。 (目の前の女にだよ!! くそが!!)  怒鳴り返してやりたかったが、アニエスに握り込まれて攻められる快楽に息が詰まり声が出ない。ぬちぬちと音を立て始めた手淫に、ラルクとアニエスの息が上がり始める。 「証拠まで押さえられて、言い訳もできない? ほら、腰が揺れてるわよ? 妻同伴の夜会で鼻の下を伸ばすのも納得だわ。この程度の快楽に屈するんだもの。」  馬鹿にしたようなアニエスに、ラルクの怒りが燃え上がった。思わずアニエスに縋らせていた腕を背中に回し、引き寄せた身体を抱え込むとアニエスの秘部に指を滑らせた。 「ああっ!!」  ぬちゅりと割れ目をなぞられ、走った快感にアニエスが嬌声を上げる。ニヤリと口元を歪めてラルクが意地悪く嗤った。 「そういうお前はどうなんだよ? なんでココをこんなにしてるんだ? あ? どいつをベッドに誘いこむつもりだったんだ?」    ぐちゅぐちゅと音を立てて捏ねくりまわされ、アニエスが頤をのけぞらせて歯を食いしばった。 (目の前の男以外誰がいるっていうのよ!!)  言い返してやりたかったが、的確に急所を押えられ、ポッと灯った熱の熱さに甘く翻った声だけがこぼれていく。指を差し入れ手のひらで花芯を押し捏ねながら、ラルクが耳朶に声を落とした。 「言い訳してみろよ。ちょっと弄られたくらいでそんなに腰をくねらせて。トロトロにさせて誰を迎え入れるつもりだったんだ? 言えよ。」  嘲るようなラルクの声に、アニエスの怒りに火が付いた。他の女に固くしていたくせに、まるでアニエスが浮気しようとしていたかの言い草。握り込んでいた肉棒から手を離し、油断しているラルクの足をすくい同時に肩を押す。  優勢に転じて油断していたラルクは、背後のベッドにあっさりと引き倒された。ラルクが体制を立て直す前に、アニエスは素早くラルクに跨った。 「二度と浮気しようと思えないようにしてやるわ!!」  怒りに燃える瞳で見下ろしたラルクに宣言すると、熱く脈打ち固く立ち上がっているラルクを掴むと一気に最奥まで飲み込んだ。 「うっ……あ……アニ、エス……!!」  衝撃と一緒に直撃した快楽に首筋をのけぞらせ、喘ぎと一緒に快楽を逃がしたアニエスは、息を整えるとそのままゆっくりと腰を揺らし始めた。 「ぐっ……!! あ……アニエス……くっ……!!」  自分の下で切羽詰まったように息を詰まらせるラルクに、言いようのない高揚感を覚える。 (今日こそ堕としてやる!!)  完全に主導権を握ったアニエスは、ラルクを見据えながら腰を振り始めた。自分を見上げるラルクの顔が上気し、快楽に呼吸を荒げる様に背筋が震えた。主導権は間違いなくアニエスが握っているはずだった。それでも嬌声は止められない。 「あ……ああっ!!……んん……ああ……ああ……」  致命的な個所と角度を避け、ラルクを責めたてているはずなのに、ぴったりと誂えたようなラルク自身は、隙間なくアニエスの中を占拠する。避けきれない快楽の波は徐々に高まり、堕とすはずが堕とされ始める。快楽に止まらなくなった腰は、抑えようもなくより深い悦びを求める動きに成り代わる。 「あぁ……くそ……アニエス!!」  ラルクが掠れた声を上げ、たまりかねたように腰に掴みかかる。掴んだ腰を強く引き寄せると同時に、熱杭が深く突き上げるように穿たれた。 「あっ!! ああああーーーーーー!!」  アニエスの悲鳴にも獣のような瞳のラルクの動きは止まらず、ますます激しく身体の中心を貫かれる。ガツガツと熱に犯される快楽に、アニエスは完全に理性を失った。鮮烈な快楽が穿たれるたびに、全身を駆け上がり突き抜けていく。 「ああ!……ああ!……ラルク!……ラルク! イイッ! イイッ!……あぁ!……いく……いっちゃう……ああっ! あああああああーーーーー!!」 「……アニエス!! アニエス!!」  溜まりきった熱が弾けた瞬間、がくがくと痙攣する身体が、より鮮明にラルクを捉えるのを感じた。一拍遅れてラルクの膨れ上がった熱杭も灼熱の飛沫を、アニエスの最奥にぶちまける。なおもゆっくりと先端をアニエスの最奥の肉にこすりつけるようにして、ラルクも吐精の快楽に震えている。  白んでいた視界がゆっくりと明度を取り戻し始め、アニエスは汗に濡れた身体のままラルクに倒れ込んだ。 (もう……また……)  じわりと滲んだ敗北感でも、最愛の男と快楽を共にした多幸感は薄れず、それがまた悔しかった。二人分の呼吸が少し落ち着いた頃、アニエスの中に居座っていたラルクが引き抜かれる。喪失感を感じる前に、アニエスはぐるりと転がされ、寝台に四つん這いに押さえつけられた。 「やあ!」  快楽の余韻に甘く舌足らずな声で、抵抗しようとしたアニエスを、ラルクがぐっと押さえつける。いつものようにあっさりと堕とされたラルクは、渇望と危機感に急かされすぐさま反撃に出た。 「アニエス、覚悟しろよ……」  今日こそ絶対堕としてやる。囁かれた宣言がアニエスの耳に届いた瞬間、硬度を取り戻したラルクの杭に貫かれる。 「ああああーーーー!!」  アニエスに跨られ最奥に飲み込まれた快楽に、あっという間に脳を溶かされた。自分の上で淫靡に踊るたびに、白い豊かな双丘がたゆたゆと揺れ、目を逸らそうにも快楽に喘ぐ女神に釘付けだった。アニエスの肉襞と視覚の暴力で、完膚なきまでに堕とされた。 「くっ……あぁ……アニエス……アニエス……」  矜持にかけて失点を取り返そうとしたラルクは、突き入れた途端襲ってきた圧倒的な快楽に熱い吐息を零した。くびれた華奢な腰を引き寄せ、白く突き出た尻の狭間に見える秘部を、赤黒く血管を浮かせた怒張で犯すのを見つめる。 「ああっ! だめ……だめ……そこだめ……ああ……ああっ!! ラルク……ラルクぅ……」 「ああ……アニエス……悦い……アニエス……」  ぶちゅぶちゅと音を立てて、甘い声で啼くアニエス犯しているのは自分のはずだった。アニエスの熱く蕩けた膣壁に擦りたてる快楽で、思考が溶けて視界まで霞むような愉悦に震える。犯しているはずが犯されている。それでもアニエスと繋がる快楽に抗えず、夢中になってしなやかに揺れる肢体を搔き抱く。堕とせない悔しさよりも、渦巻く快楽と幸福感に飲み込まれていく。  こんなアニエスを知るのは自分だけ。他の誰にも触らせない。胸の奥で呟いた瞬間、打ち込む欲望が体積を増した。膨れ上がった己が、ますますアニエスの媚肉に鮮烈に締め付けられる。 「ぐう……うぁ……アニエス! アニエス!」 「ラルク! ラルク! もうだめ! いっちゃう……いっちゃう……ああ……いっちゃうよぉ……」  アニエスの蕩けた声が、ラルクから理性を奪って獣にする。快楽が極まったアニエスの中がぐにぐにと責めたてるようにうねりを増し、その良さにラルクは腰を振らされ暴発するように最奥に白濁を吐き出した。 「あああああーーーー!!」  目の奥が明滅するほどの快楽に震えながら、叩きつけられた灼熱にアニエスが悲鳴を上げて絶頂する。その身体をきつく抱きしめながら、余韻に止められない腰を押し付ける。完全敗北にも打ち消せない、愛する女との交歓の悦楽に満たされながら、ゆっくりとアニエスから引き抜いた。そのまま引き合うように唇を合わせ、想いの丈を吐き出すように舌を絡め合う。 (好き……好き……ラルク……ラルク! こんなに好きにさせたんだから責任取ってよ……好きなの……ラルク……私以外を見ないでよ……) (アニエス……アニエス……愛してる……愛してる……俺だけのものでいろよ……心底惚れてるんだ……頼むよ……アニエス……)  貪るような口づけが、身体の熱を再燃させる。どちらともなく繋がり始めた二人は熱い吐息の間に、決意した。 ((もう数で勝負する!!))  と。   (快楽で堕とせないなら、弾倉がなくなるまで搾りとってやればいいのよ!) (どうやっても勝てない。なら毎回抱きつぶして、他でヤる体力を残さなければいい!)  閃いた名案を早速実行すべく、二人は汗ばんだ身体を絡ませ合う。完全に頑張る方向性を間違えていた。  さすがに周りは徐々に気付き始めた二人の内心は、不毛に己と懸命に闘う二人には目に入らない。  ラルクは騎士団の、アニエスは家門の騎士団で。日々の訓練で汗を流した合間に手料理、スイーツ店巡り。夜は堕とすために毎晩ベッドで真剣勝負。そんな生活で太るわけがないことにも気づけないのだから。  どこまでも真剣に互いを堕とすためのベッドは、新婚とは思えない練度に達している。それでも足りないらしい。何とか相手を手に入れるため、今度は回数を重ねるという新たな目標に向かって、全力で闘い続ける覚悟を決めてしまった。  これだけ拗らせてしまっていると、気付き始めた周囲の助けが必要なのかもしれない。  
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