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犯人は誰だ!?
要因はいくつかある。
その日の訓練はいつもよりキツかったこと。
体力を使う剣技だけではなく、魔力も使う魔術訓練もあったこと。
魔術騎士として魔術騎士団に所属している以上、女であることも、まだ騎士学園に通う準騎士であることも言い訳にはならない。
忍び込んできた気配に気づけず、起死回生の一手が繰り出せないほど、状況が悪化してから目が覚めたのだから。
※※※※※※
いやに近く聞こえる衣擦れの音と、肌寒さを感じて目が覚めた。
目を開けて少しだけぼんやりしたあと、瞬時に覚醒した。あり得ない状況に陥っていたからだ。
うつ伏せで尻を高く上げていた。
頭の上に両手を縛られ、ヘッドボードに固定され、拘束されている。ご丁寧に猿轡もしっかりされている。
肌寒いのも当然で、衣類は全て剥ぎ取られていた。気配で私が起きたことがわかったのか、左手で口を塞がれる。
ドクドクと心臓が鼓動を速くした。何が起きているのかは判断できなくても、危機的状況なのは間違いなかった。
ぬちっと水音が部屋に響き、ビクリと身体が跳ねた。全身が小刻みに震えだす。
今、触られたーー下半身、アソコをーーー
ぶわりと肌が粟立ち、必死に抵抗しようとするも、拘束されていない足はひどく重く、意思に反して動かない。
ーーーーまさか、弛緩魔法かけられてる…?
鉛のように重い足はシーツを僅かにするだけで、思うようにならない。実習で弛緩魔法を受けたときと同じ感覚だった。
抵抗の手段が次々と封じられて、焦りが募る。
「んんんーーーー!!」
猿轡をされた上、手のひらで覆われた口は声を出せず、助けを呼ぶこともできない。
どうしようどうしようどうしよう
身体は震え、思考は空回る。動かせるだけ身体をよじり、必死に声を出そうとする。
侵入者はじっと一通りの抵抗を見つめていた。背中に焼け付くような、視線を感じた。
声も出せず、弛緩魔法も効いて大した抵抗ができないことを見て取ったようだ。ふわりと手のひらでなだめるように頭を撫でられた。そして離れた手が、アーリンの秘裂をぬるりと撫で上げた。
「………っ!!!んんーーー!!」
びくりと腰が震え、何をされているか、これからが起きるか予想がついてぶわりと涙があふれる。
いやだいやだいやだ
口を塞いでいた手が離れ、高く上がった尻の割れ目ごと秘裂が広げられる。外気に晒されたそこがひやりとし、潤み始めてくることをアーリンに知らしめる。
割広げたまま、ぶぢゅりと熱いものが押し当てられた。じゅぶ……じゅる……舌だ。男の舌が秘部を舐めねぶっている。
「んんんーーー!!んんーーーー!!」
必死の叫びは声にならず、恐怖と混乱で身体はガチガチなのに、舌の刺激に熱がこもり始める。
そんな自分の身体の裏切りに、呆然とし必死に抗おうとするもどうにもならない。
執拗に焼けるように熱い舌で舐めしゃぶられ、認めたくない快楽が背中を震わせる。
「ーーーーっ!!!」
花芯からねっとりと舐め上げられ、声にならない悲鳴をあげる。片手が離れ、次の瞬間にコリコリと硬度を持った花芯が押し転がされる。
やだやだやだやだ
身体に熱がたまり、ぞくぞくと腰を震わせる快楽を否定したくて声にならない叫びを必死にあげる。
用意周到に身体を拘束し、誰ともしれない男にまっさらな身体を好きに暴かれている。
そんな行為に自分の身体が快楽を感じているなど認めたくなかった。許せなかった。
自分自身の身体の裏切りに涙が、ボロボロ流れて猿轡の布に染み込んでいく。
ぐちょぐちょと水音は、ますます卑猥に室内に響く。明らかに愛液の分泌が増したのがわかる。
自分の身体を好き勝手に弄ぶ男にも、既に知られているのだろう。悔しさが込み上げて、猿轡の布を噛みしめる。
花芯を擦りあげ、押し捏ねる指。秘裂に差し入れ、舐めねぶり、じゅるじゅると吸い上げる舌に勝手に腰は揺れ、力の入らない身体は昇りつめ始める。
いやだ!いやだ!
必死に歯を食いしばって、何度も浅い呼吸を繰り返し、裏切る身体に歯噛みしながら快楽をこらえる。
グリッと花芯が押しつぶされ、ぶちゅりと強く吸われた瞬間、堪えていた快楽が弾け、アーリンは絶頂した。限界まで圧縮された熱が、一気に開放され小刻みな不随の痙攣が何度もアーリンを襲う。
呆然と呼吸を貪りながら、胸にじわじわと悔しさがこみ上げる。
だが、ゆっくりと敗北感を味わうことは許されず、ぐぢゅっぐぢゅっと節くれだった指が、ひどくぬかるんだアーリンの秘裂にめり込んだ。探るような抽挿に、達したばかりの身体が、ぞくぞくと愉悦を走らせた。
花芯を撫でまわす指も、アーリンの中をかき混ぜる指も、ぬるぬると抵抗なく肌を撫でる。
愛液はしとどに溢れ、内腿まで伝っているのを皮膚感覚がアーリンに知らせる。
敏感になった身体が、たまらない場所をすられて、勝手に反応する。その淫らな膣壁の収縮は男に見逃されるはずもなく、集中的に責め立て始める。
こいつ、絶対ドSだ!!!
ぶちゃぶちゃと水音を奏でながら、男の指は張り詰めた花芯と、アーリンのうねうねと蠢く膣内を的確に攻略していく。
ゆらゆらと腰が勝手にくねり、食いしばってもぞくぞくと愉悦が身体を駆け巡る。
だめ!だめ!やだやだ!イきたくない!やだ!ああ、だめ!
理性の抵抗が限界を迎えそうなその瞬間に、外と内を同時に強く押され、視界が真っ白に染まった。
絶頂の叫びをあげながら、アーリンの秘裂からプシュッピュッピュッと液が飛び出る。
弛緩して絶頂の余韻に腰をくねらせ、膣口を収縮させながら潮を吹く。隠しようもなく晒した秘裂は、ねだるように卑猥に蠢いているのだろう。その様子を余さず見ているだろう男が、今まで保った沈黙をごくりと喉を鳴らす音で破った。
性急な様子でアーリンの細腰を掴み、まだ余韻から立ち直れないアーリンを灼熱の熱棒で貫いた。
「んんんんーーーーー!!」
ぶつりと押し開かれる感覚と、引き裂かれる痛みに絶叫する。ぐっぐっと隘路を貫くモノは凶暴な大きさで、アーリンは必死に頭を振る。
ふっふっと男の押し殺した息遣いが、アーリンを犯す水音に重なって響いた。
律動は激しくアーリンを責め立て、怒張を飲み込まされた秘裂が抜き差しのたびにめくれ上がるかのようだった。
もう抵抗する力もないアーリンは揺らされるまま、息苦しい圧迫感を必死に呼吸で逃そうとした。
男のたまらなげな抽挿に、ぞわりと肌を粟立たせる感覚がまじり始める。
噛み殺した荒い息から余裕が消え、男がアーリンに覆いかぶさる。花芯を擦られ、乳房を乱暴に揉みしだかれる。
圧迫感が痺れるような快楽に置き換わる。
パンパンと肉をぶつかる音が絶え間なく響き、執拗に子宮をゴッゴッとおしあげるように突き上げられる。
アーリンが臨界を迎えようとした時、一際強く穿たれ、アーリンの肩口に歯が立てられた。ふわりと男の纏った匂いが香り、柔らかい髪の感触が頬に触れる。
ぐぅっ………!
喉の奥で押し殺した男の喘ぎが立てられた歯の隙間から漏れ、獣のような荒い息使いが鼓膜をあおる。膣を我が物顔で占拠していた膨張した雄がアーリンの最奥に熱い飛沫をぶちまけた。
男はそのまま荒い息を付きながら、ゆるゆると腰を穿ち、ズルリとアーリンの中から出ていった。
秘裂を割り開き、どろりと零した白濁を見つめたあと、アーリンの頭を微かに撫でた。そのまま手のひらからほのかに温かい空気が漏れ、アーリンは意識を手放した。
アーリンが目覚めた時、寝衣を纏い、清潔なシーツの上に横たわっていた。
昨夜の残滓は身体から消えていたが、夢ではないことはわかっていた。
左肩に残る歯型と、おろしたてだとわかる交換されたシーツ。残滓は浄化されていたが、残された腰のだるさ。
アーリンはベッドから何とか立ち上がり、シャワー室に向かう。今日が休みで本当に良かった。
浄化されてるとはいえ、見知らぬ男に好きに弄り回された身体を少しでも気のすむように清めたかった。
湯気で曇る鏡に映るアーリンは怒りに燃えていた。
※※※※※※※
犯人は絶対に捕まえる!!
そのためにはまず、状況を整理することにする。
○使用された魔術から考え、上位魔術を操れる人間であること。
(弛緩魔法は同級生でも半分程度しか扱えない)
○背が高く筋肉質。手のひらは大きく剣だこがある人物であること。
(頭を撫でる、口を塞ぐなどで接触した手のひらの大きさ、感触から判断。)
○柑橘系の香りのシャンプー、石鹸の使用者であること。
(歯型を残されたときに香った匂いから判断。)
○性別は男。髪質はサラサラヘアではなく柔らかい猫っ毛であること。
(頬に髪が触れた感触から判断。)
拘束していた縄や猿轡が残されていれば、もう少し手がかりになっただろうが見当たらなかった。狡猾なやつだ!!
とは言え、書き出してみると意外と手がかりは残されている。あっ!!と思いついて、ガサゴソと引き出しを漁る。なるべく薄い紙をくっきりと残る歯型に当てて、凹みをなぞりながら残った歯型の型を採る。チリッと傷んで顔をしかめる。
「う〜ん、歯並びがいいことも追加情報に入れないと。」
本当はこの忌々しい歯型を治癒魔法で消してやりたいが、これも一つの手がかりだ。型は採ったが治癒魔法は使わずにおく。
うっかり治し忘れただろうこの歯型が命取りになるかもな!アーリンはずらした服を整えてニヤリと笑った。
歯型をうつした紙は折り畳んで、情報を書き出した紙を見やる。
「………内部犯行?」
外部の人間の可能性も捨てきれないが、魔術を使えて剣だこまであるとなると、魔術騎士の可能性が高い。犯行現場が騎士学園の寮内であることからも、より可能性が高まる。
魔術騎士団寮は魔術結界が施されているため、外部からの不法侵入はかなり難易度が高いのだ。
ひとまず魔術騎士団に所属しており、寮生と仮定して調べてみよう。
そうと決まればまずは情報を収集して、容疑者の、絞り込みをしなければ!
手早く着替えてアーリンは部屋を駆け出した。
※※※※※※
廊下をすれ違う人をこっそり嗅ぎながら、頭髪チェックも怠らない。該当しそうな人物とはすれ違わず、目的地に到着する。
軽くノックをすると、軽い足音の後扉が開いた。
「アーリン、どうかした?」
「今、ちょっといい?」
「うん、いいけど、ミリアも来てるけどいい?」
「かえって好都合。入ってもいい?」
「うん。どうぞ。」
お茶をしてたらしいテーブルには、口を開けたお菓子が並べられていて、勧められた椅子にアーリンは座った。
「アーリン?どうしたの?」
「ちょっと二人に聞きたいことがあってさ。」
「聞きたいこと?」
「えーっと、上位魔術が使えて、背が高い猫っ毛の人を知りたいんだけど。」
「え?何そのよくわからない限定条件。」
「アーリン、恋人探しでも始めたの?」
誰が恋人や!!強姦魔探しだ!!と叫びたくなったが、そういうことにしておいたほうが面倒がなさそうだ。アーリンは乗っかることにした。
「まあ、そんな感じ。」
「へぇ〜、どういう心境の変化?」
「でもいいことだよ。アーリンが恋愛に興味ないせいで、いい男が回ってこないもん。」
「言えてる!アーリンが片付いてくれたら、失恋した将来の有望株とお近づきになれる!!」
なんだそれ……。呆れつつも将来有望=成績上位者のイケメン情報で盛り上がる二人の会話に耳をそばだてる。
なんと言っても恋人・絶賛大募集中の二人は、有望株、イケメン探しに余念がない。情報収集にはピッタリなのだ。
単にイケメンなだけの男の情報はスルーする。なにせ強姦するような奴だ。イケメンの可能性は低い。顔が良ければ女に不自由することはないのだから。
重要なのは成績上位者。気になる名前をこっそりメモを取る。
「ステファノ・リューガーもいいけど、やっぱり、最有力は学年首席のライル・カイセルじゃない?第一騎士団に内定したらしいよ?」
「確かに!顔良し、頭よし、魔術よし、剣技よしだもんね。恋人いるのかな?」
「告白されてるのは見かけるけど、恋人の話は聞いたことないな。」
「まさかフリー?もしかしてチャンスあるかも!」
「さすがに高望み過ぎない?」
「まあねぇ〜。あっ!でもアーリンならいけるかもね!」
「美人って得よね。アーリンもようやくその気になったことだし。ライル・カイセルいってみる?」
「モテるのに今まで、全スルーだもんね。ん?あれ?アーリンってクリストンと噂になってなかった?もしかしてもう付き合ってるの?」
「はぁ?」
拝聴の姿勢をとっているところに、思わぬ飛び火を食らってアーリンは目を剥いた。
「え?あれただの噂じゃないの?もしかしてクリストンと付き合うための情報収集?」
「違うって!まずそのクリストンすら知らないんだけど!」
「そうなの?」
「うん。パッと顔が出てこない。」
「そうなの?金髪で背が高い剣術科の人。顔良いけど、ちょっと評判よくないよね?」
「うん。結構遊んでるらしい。女を取っ替え引っ替えだとか。」
「アーリンに告白したとか、されたとか。付き合ってるとか、これから告白するだとか。なんか色々あった気がする。」
「恋愛事に興味ないアーリンが告白するのはあり得ないから、単なる噂だと聞き流してた。」
「告白もしてないし、されてないと思う。そもそも誰かわからないし。」
しかし、女を取っ替え引っ替えか……。困ってなさそうでも、そういう可能性もあるわけだ。
「そのクリフトンって人、上位魔術師なの?」
「クリストンね。さぁ、どうだろ?成績がいいって話は聞いたことないな。」
「むしろ結構サボるって話だよ?」
魔術レベルは不明か。でも他の条件が合致するかは見ておきたいな。
何人かのそれっぽい情報を仕入れて、アーリンは部屋を後にした。
※※※※※※
調査開始5日目。
容疑者探しは行き詰まっていた。
魔術上位者でメモをとった人物は数名を残して空振りしていた。
日中は容疑者探し。夜は再びの侵入がないように、壁に背中をつけて窓とドアを警戒して過ごすため、寝不足だった。
アーリンは現状にイライラが募り、気分転換のために鍛錬場に足を向けた。
容疑者候補の一人。クリストン・デンバーも結果から言うと外れだった。
アーリンは気になる魔術上位者を確認しながら、実はクリストンが犯人なのではないかと考えていた。
女を取っ替え引っ替えの素行の悪さに加えて、アーリンに関する身に覚えのない噂があった点も怪しいと感じる根拠の一つだったのだ。
実際に顔を合わせたクリストンは背が高く猫っ毛ではあった。ただまとう香りは鼻を覆いたくなるような甘ったるい香水だった。
顔を合わせたアーリンにやたらと絡み、その場を離れようとした手を掴んでまで引き止めてきた。
確かに噂のように素行は悪そうだが、掴んできた手はキレイなものだった。
剣術科に所属していて、剣だこもないキレイな手。よくサボるというのではなくしょっちゅうサボるが正しいのだろう。
あんなにキレイな手は絶対ない!剣だこでゴツゴツしてて、節くれだってた!
だからちょうど当たって………
下腹部がキュンと甘く疼いて、アーリンは地団太を踏む。
足からの衝撃で、甘い疼きを蹴散らす。
無理矢理された行為に感じてなどいないのだ!!
あの夜を思い出すと、身体が疼くなんてことはあり得なくて、下着が汚れるなんてことも断じてない!!
ダンダンと踏みつけて、気持ちを立て直すと、あの日から何度もアーリンに反逆する身体に、寝不足も相まって苛立ちを募らせていた。
こんな時は剣を振り回すに限る!
もう目の前までたどり着いていた鍛錬場で、適当な摸造剣を引っ張り出す。
あの強姦魔!見つけたらただじゃおかないんだから!!
苛つきを発散させるためだけに、デコイに力任せに剣を叩きつける。
こうして!こうやって!こう!絶対に叩きのめしてやるんだから!!
ガキンガキンと叩きつけられる剣が、バキッと不吉な音をたてて根本から折れる。
力任せに振り抜いた反動でバランスを崩し、デコイに頭から突っ込む。
「危ないっ!!」
デコイに額を強かぶつけ、目の前が点滅する背後で、キンと澄んだ金属音が聞こえた。
ザクッと地面に突き刺さる音がして、折れた剣先が刺さっていたかもしれない事態に気付き青ざめる。
「……ありがとうございます……」
「やたら振り回してたから気になってた。今回は大丈夫だったけど、あんなふうに振り回すのはやめたほうがいい。」
「……すいません。」
返す言葉もなく素直に頭を下げる。あれが刺さっていたら大変なことになっていた。
「怪我してる。ごめん、弾き飛ばすので精一杯で。」
「いえ、自業自得なので。」
「これくらいなら……治癒魔法かけるよ。」
「すいません、ありがとうございます。」
手のひらが額にそっと当てられる。
剣だこのできたゴツゴツした大きな手。
触れる瞬間、空気がふわっと揺れ、爽やかな柑橘系の香りが立ち上る。
この匂い、この手の感触………
じわりと温かな魔力が伝わってくる。この魔力……。
「どうかな?もう大丈夫だと思「お前かーーーーーー!!」
離れていこうとした手をがっしり掴み、男の顔を見据えて叫んだ。
長身に筋肉を纏った身体に、端正な顔立ちの甘い美形。その髪は明るい茶色で、ふわふわとした猫っ毛だった。おそらく歯並びもいいはず。
エメラルドのような瞳と視線が絡むが、その視線はふいっと逸らされた。
間違いない。こいつが犯人だ!
「何が振り回すと危ないよ!誰のせいだと」
大きな手のひらで口を塞がれ、ワタワタと周りを見回した男は、慌てたようにアーリンの腰に片腕を回し、暴れるアーリンの口を塞いだまま駆け出した。
※※※※※※
腕を組んで仁王立ちするアーリンの目は不穏に細められている。その目の前で、大きな身体を縮こまらせて、ライル・カイセルが見事な土下座を披露していた。
「で?何か言うことは?」
「………すいませんでした。」
「将来の有望株の学年首席が、女子寮に夜な夜な忍び込む強姦魔とはね!」
「ち、違う!誤解だ!あんなことしたのは初めてで!誓って常習ではないんだ。」
「どうだか!あれだけ用意周到な初犯なんて信じられると思う?」
「ううっ…本当だ。忍び込んだのも、その、女性と関係を持つのもあの日が初めてだった…」
「………っ!」
あの夜を匂わせる発言に、顔が赤くなる。
だが項垂れているライルには気付かれずにすみ、アーリンはホッと胸を撫でおろす。強姦魔の目の前で弱みを見せるわけにはいかないのだ。
「……魔術結界は窓の制約が甘いんだ。だから窓から出て、君の部屋の木から壁を伝って窓から侵入した。」
「なんでそんなことを?」
「君がクリストン・デンバーと付き合い始めたって聞いて真偽を確かめたくて…」
「縄を持って?」
「ううっ……クリストン・デンバーに、奪われるくらいなら、俺が先に奪ってやろうと…」
「クリフトン・デンバーなんて、そもそも顔も知らなかったんだけど。」
「クリストン、だ。アーリン、本当かい?あいつと付き合ったりしない?」
「馴れ馴れしく名前で呼ばないで!強姦魔!」
「ううっ……本当にすいませんでした。」
ガバリと再び土下座を繰り出したライルは覚悟を決めたように顔を上げて叫んだ。
「責任は取ります!俺と結婚してください!」
「はぁ?なんでそうなるのよ。」
「アーリン・マイゼン。ずっとあなたが、好きでした!」
「え!ちょっ…何言って…」
「何度も告白しようと思ったけど、顔を見るだけで緊張して……卒業前にはって決めてたときにクリストンと、付き合うって話を聞いて、いてもたってもいられなくなったんだ。
本当に悪いことをしたと思う。でもあんな奴にどうしても君を取られたくなくて。」
「だからって…」
予想外の方向に転がりだした話にアーリンが慌てふためく。だがライルは開き直ったのか、まっすぐ真摯な眼差しでアーリンを見据えて視線を逸らさない。
「わかってる。だからって許されることじゃない。でも気持ちは知っておいてほしくて。あの夜のことが忘れられないんだ。」
ドクンとアーリンの心臓が飛び跳ねた。鮮明に蘇った記憶に、切ない疼きが蘇ってくる。
「我に返ってしでかしたことに気付いて。卑怯なことに痕跡も全部消して夢だと、そう思ってくれないかと思ったりもした。
でも君につけた印をどうしても消したくなくて、君が起きたら、その…、下半身も辛いとは思ったけど、君と僕があの夜、繋がったことを本当は覚えててほしくて、治癒魔法をかけなかったんだ。」
感覚までも鮮明に思い出し、アーリンは真っ赤になった。
「身辺整理を終えたら、謝りに行くつもりだった。でもどうしても君を、諦めきれなくて。許せないだろうことはわかってる。それでも一度だけでも考えてくれないか?君が好きなんだ。責任を取りたいんだ。俺と結婚してください!」
再び見事な土下座を決めたライルに、アーリンは身体と心に突如発生した異常事態にハクハクと口を開閉するだけで言葉が出ない。
「………その、実はあの夜、避妊をしなかったんだ。君が俺の子を妊娠してしまえばいいと思って…。でも部屋を出るときに迷ったけど、浄化魔法はかけたんだ。それでも、その、万が一があるかもしれないだろ?だから………アーリン?」
黙ったままのアーリンにライルが顔を上げた。視線の先のアーリンは、誤魔化しようもなく茹で上がっている。
ライルは目を見開いて瞬き、それからゆるゆると顔を綻ばせた。
「アーリン。その顔は、その、俺を許してくれるってことでいい?俺と結婚してくれるって……「ちっ!違います!!」
「でも…」
「違くて!これはあなたがあの夜のことを思い出させるから…!!」
「………アーリンも、あの夜を忘れられないでいてくれたの?」
「………っ!!」
「あんなことしてしまって本当にごめん。でも確かにあの夜のアーリンはすごくて、その、潮まで「違います!そんなんじゃなくて…とにかく結婚なんてできませんから!友達も恋人もなく、いきなり結婚だなんて!」
「………まずは恋人から始めようってこと?」
「!!!!!」
「ああ、アーリン!好きだよ。ずっと好きだったんだ。君と恋人になれるなんて信じられない!!」
もう何がなんだかわからずに、ただ羞恥に茹だる顔が熱くて、心臓がドクドクと落ち着かなくて。
いたたまれなくなったアーリンは、寮に向かって全速力で逃げ出した。
「ちょっと、どこ行くのアーリン!」
「ついてこないでください!!」
その後、二人は揃って無事に卒業を迎え、魔術騎士として活躍したそうだ。
二人がその後、どんな関係を築いていったのかはこれとはまた別のお話。
とにもかくにもアーリンの犯人探しは、無事に終わりを迎えた。
その結末は、アーリンが思っていたのとは、ずいぶん違った結末を迎えたのだった。
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