秘密の切り札 中編

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秘密の切り札 中編

(………いつもより、人が少ない……)  いつもなら護衛の騎士や、侍女がいるはずの廊下は人気がなかった。部屋に出ると瞬く間に見つかり部屋に連れ戻されていたアデーレにとっては都合がいいが、籠絡しようにもその相手がいないのは困る。  (騎士様がいてくれたら……)  キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、先の角から話し声が聞こえてきた。ぱっと顔を輝かせ、アデーレは足を早めた。  わざとぶつかって部屋に運んでもらい、そこで誘惑して籠絡。こんな作戦しか思いつかないが、成功したら使えると証明できる。  美貌と身体。簡単にはいかないかもしれないが、他ならぬフェリオルが武器になると言っていた。やってみせる。アデーレは目の前に迫った角に思い切って踏み出した。  「…………への襲撃は、4日後の………」    ドンッと伝わってきた衝撃に、小さく悲鳴を上げて大げさに倒れ込む。高まった緊張に騒がしい鼓動を抑え込みながら、アデーレは伏せた顔を渾身の力でそっと上げた。  上げた視界にぶつかった文官姿の青年。驚いたように小さく声を上げた騎士。そして目を見開いたフェリオル。  「………アデーレ!」  「……っ!!フェリオル様!!」  しまった。そう思った瞬間に、フェリオルの目が剣呑に細められた。  「………アデーレ、ここで何をしている!」  「フェリオル様、あの………きゃあっ!」  不穏な声音にアデーレは縮こまり、必死に取りなそうとする頭からばさりと上着を被せられた。そのままフェリオルに抱え上げられる。  「あ、あの……違うんです……!!」  「黙れ。言い訳は部屋で聞いてやる!」  「えっ……あの!!助けて……!!」  バタバタと暴れるアデーレをものともせずに、のしのしとフェリオルが元来た道をアデーレを抱えたまま進んでいく。  その声に滲む怒気に、アデーレは一緒にいた文官と騎士に瞳を縋らせた。二人ははっきりと視線をそらしていた。見て見ぬふりをされた。アデーレが愕然としている間に、部屋にたどり着き乱暴に寝台に放り込まれる。  「部屋から出るなと言ったはずだな?」  「あ、あの……フェリオル様……」  「言ったはずだな?」  「………はい……ですが……!」  「言い訳するな!お前の姿を見られただろう!」  「…………あっ………考え、たらずでした………申し訳、ありません……」    言い訳しようと必死になっていたアデーレは、事の重大さに気付いて瞳を伏せて俯いた。  「………アデーレ?」  「申し訳ありません……顔を知られていないことも私の価値であったのに……浅はかでした。ちゃんとお役に立てると証明したいばかりに……」    味方にさえアデーレの姿を隠す。フェリオルはそれほど慎重に事を運んでいたのだ。来たるべき時のために。部屋から出さないのもそのためで……。ようやくそれに思い至って、自分の行動の浅慮にアデーレは唇を噛み締めた。  「………………なぜあそこにいた?」  「……証明したかったのです。間諜としてお役に立てると。誰かを誘惑し、籠絡できたなら父と弟のために使えると分かっていただけると……」  「…………なんだと?」  「このまま時が過ぎることに焦っておりました。父達は今このときも、苦しんでいるかもしれない……。ですが私は未だ翻弄されるまま、なんの成果も出せておりません。顔を知られていないことが価値であることに思い至らぬほどの焦りに、成果を出して認めていただこうと……。申し訳ありません……」  「………それで誰かを誘惑して籠絡するために部屋を抜け出した、と?」  「………はい……フェリオル様以外の方ならば、成果を出せるのではと思ったのです……」  「……………ふざけた事を!!」  悄然と俯いたアデーレの頭上に、フェリオルの怒声と奥歯を軋らせる音が届いた。それでもアデーレは懸命に声を押し出した。  「………ですが一刻も早く父と弟を………っ!!こうしている間にも、どんなにひどい目に合わされているか………!!」  絞り出すようなアデーレの涙に揺れる声に、フェリオルは沈黙し深くため息をついた。  そっと顔を上げたアデーレの涙を拭いながら、フェリオルはなんとも言えない表情を浮かべていた。小首を傾げたアデーレに、ギシリとフェリオルが寝台に腰を落とす。額を覆ってしばらく黙り込んでいたがゆっくりとアデーレを振り返った。  「……あ、あの………」  「お前の父と弟は無事だ。」  「本当に……?」  家族の安否に顔色を明るくしたアデーレに、フェリオルは頷き現状を話し出す。  「……お前の父と弟を捕らえさせる証拠を捏造したのはデフクリト男爵だ。3日前に拘束されている。」  「拘束されている?では……?」  「だが、デフクリトに指示した者はまだ捕らえられていない。フェルーディオ侯爵の後釜として、現宰相位にいるのはジリバルド公爵だ。」  アデーレが息を詰め、静かにわなわな唇を震わせる。その唇を指でなぞりフェリオルは瞳の奥を不穏に煌めかせた。  「ジリバルド公爵は現王弟派閥の筆頭家門だ。」  「……えっ……まさか………?」  「王弟の放蕩の噂は知っているか?」  青褪めた顔色のままアデーレが頷く。  「父と弟から聞いたことがあります。年若い貴族子息と共に、いかがわしいお店に出入りしては問題を起こしている、と。今の年頃の貴族子息できちんとした身持ちの方を探すのは難しいとも言っていました。」  フェリオルは呆れたようにため息をつく。まるで歳の釣り合う貴族令息全てが、王弟の取り巻きとでも言わんばかりの物言いだ。  「…………ゼディフィスもそう言っていたのか?」  「はい。あの……弟を知っているのですか?」  成人前の弟は第二王子の側近候補として出仕している。その弟も父同様に、遊ぶことしか考えない奴らばかりだと嘆いていた。  迷いなく頷くアデーレに、フェリオルは眉を顰めた。なんとも言えない表情に、アデーレは首を傾げる。  「ゼディフィスは第二王子の側近だろう?」  「はい。」  「第一王子と第二王子の話は?」  「多少は。第二王子は優秀だけれど未だ未熟。第一王子は面倒くさがりの怠惰な怠け者と……。」  フェリオルは苦虫をすり潰して、口いっぱいに頬ばったような顔をした。  「…………………そうか………」  「あの…………?」  「お前の父と弟はお前と歳の釣り合う男は、全員節操なしの能なしか、昼行灯のぼんくらにしておきたいらしい。」  「……なぜそんなことを?」  小首を傾げるアデーレを、フェリオルはじっと見つめたあとしばし沈黙した。  「………いや、いい。」    一体、どれだけ嫁に出したくないのか。貴族令息で王弟の取り巻きになるおかしなのは、ごく一部で大半はまとも。王弟は確かにとんでもないアホだが、他の王子は宰相もゼディフィスとも気安い仲だ。  「………第一王子はお前の父が師となって教育し、第二王子はお前の弟と共に教育を受けている親友だ。」    第一王子は確かに皇太子を拒否してる。膨大な執務をこなしていても、面倒くさがりの怠け者。優秀な第一王子の補佐を希望している第二王子は未成人。あと半年で成人する親友は、未成人だから未熟者呼ばわり。親ばかとシスコンをこじらせている。  「……そう、なのですね……?」  曖昧に頷いたアデーレに、フェリオルはにっこりと微笑みかけた。  「………父と弟の言が正確なのかはいずれ分かる。」  「はい。」  その笑みに不穏さを感じてアデーレはそっと身を引いた。フェリオルは不機嫌そうに顔をしかめ、アデーレの腕を掴んだ。  「今回の一件は陛下が倒れたのを機に、王弟が画策した謀略だ。お前の父は親バカなのはともかく優秀だ。宰相であるうちは王弟にいたずらに国政の舵取りは任せない。今回の件は……。いや、助け出した後で父親に確認するといい。」  「では王弟殿下が私の……」  ぐっと瞳を強くしたアデーレをじっと見つめ、フェリオルはゆっくりと獰猛に目を細めた。  「………人の口の端にのぼるほど、放蕩に耽る王弟だぞ?今のお前で籠絡できるのか?誰かを誘惑して籠絡するつもりだったんだろ?どうやるつもりだったんだ?実演して見せろ。」    獰猛な肉食獣のようにニヤリと嗤うフェリオルに、アデーレは怖れと期待が湧き上がる。  澄み渡る空色の瞳に射竦められ、アデーレは促されるまま衣服を肌に滑らせた。 ※※※※※  「………拙いな。それで籠絡できるのか?」  男を知らぬその拙さにぞくりと情欲を掻き立てられながら、フェリオルは雄に舌を這わせるアデーレを食い入るように見下ろした。  赤く濡れ光る唇と舌はやけに扇情的で、アデーレの唾液を纏う己が血管が浮くほど猛っている。  「自分のしていることの自覚はあるか?」  戸惑うように見上げてきた瞳に、うっそりと笑みを浮かべてみせる。跪き晒させた媚態に目を細めて、アデーレの頬に手を伸ばす。  「その美しい顔を歪ませながら俺のモノを咥えこんでいる。自分の中を深く穿たれるための準備をお前が自らしている。淫らだな。」  情欲に濃くした空色の瞳に、カッと羞恥に顔に朱を上らせたアデーレが映る。している行為の意味と屈辱に、下腹部がきゅうっと期待に疼き羞恥に離れようとしたアデーレを両手で押さえ込んだ。絡んだ視線の先でフェリオルが口角を上げた。  「誘惑して籠絡するんだろ?」  低いその声に震えが走り、期待するようにはっきりと自分のそこが熱くなるのを感じて、アデーレは涙を滲ませた。満足げにたっぷりと眺めていたフェリオルが、押さえ込んだアデーレの口から引き抜き寝台に縫い止めた。  「やっ!ああっ!!」  くちゅりと音を立てて秘裂に潜り込まれた指に、アデーレが背をのけぞらせる。  「なんだ?いじられもしていないのに濡れそぼっているぞ?」  「やぁ!ちが……!ああっ……!」  「口に咥えこみながら想像したのか?奥に埋め込まれて抱かれるのを。」  「ちが、違います!そんな……んあっ……やぁっ!!」  「違うものか。ならどうしてこれほど滴らせている?」  ぐちぐちとわざと音を立てて中を擦り立てる指に、アデーレは羞恥と快楽に必死に首を振った。図星を指されて顔をあげられない。  口内で固く脈打つそれが、アデーレを深く穿つたびに脳が痺れるような快楽を与えてくる。思い出すたびに、奥が熱く疼くのを止められなかった。  ぐいっと無理やり上げさせられた顔を覗き込み、視界の先でむせ返るような色香をたたえてフェリオルが嗤った。  「欲しいか?アデーレ。奥まで埋めてほしいんだろ?」  「んっ……あっ……知り、ません……」  「バカな事を。ここをこんなにしているのに。媚びろ。言わねば満たしてやらぬ。」  ぐちゅぐちゅと中を掻き回わされ、込み上げる熱と疼きにアデーレは歯噛みする。それでも弾ける寸前で何度も押し留められる熱のもどかしさに、アデーレはフェリオルに縋った。  「ふぅ……はぁ……フェリオル、様……もうどうか……欲しい……お願いします……」  掠れたか細い声での懇願にフェリオルが笑みを刻む。押さえつけられていた腕が緩み、ぎしりと寝台が揺れた。引き寄せられながら視界は反転し、筋肉の詰まった胸板に抱き寄せられた鼓膜にフェリオルの低く響く声が届いた。  「乗れ。自分で奥まで満たせ。」  そそり立つ雄を押し付けられ、アデーレがあっと小さく悲鳴を上げる。欲しくてたまらない、疼いてい仕方ない。でも奥まで満たすにはフェリオルの目の前で跨り、凶悪に立ち上がっている怒張をそこにあてがい飲み込まなくてはならない。    「淫靡な娼婦のように、護衛の騎士でも連れ込んでたらしこむつもりだったのだろう?この程度で尻込みするのか?」  惑うアデーレを嘲笑うようなフェリオルに、ようやく気づいた。怒っている。部屋を勝手に抜け出した事を。姿を晒してしまったことを。ごくりと喉を上下させるアデーレに、フェリオルは嘲笑を浮かべた。  「どうした?使えることを証明するんだろ?俺を誘惑し籠絡して見せろ。」    誘うような甘く響く低音に、アデーレは操られるように足を開いて跨った。父と弟を助けたい。役に立てると証明したい。本心なのにそれが言い訳であるかのように、ゾクゾクと官能に身を震わせながら、アデーレはフェリオルの雄を握りこんだ。  教え込まれた脳を焼き切るような、あの鮮烈な快楽に満たされる期待に下腹部の疼きが増す。  フェリオルの目の前で足を開き、蜜でぐずぐずに解けた秘裂に、フェリオルをあてがう。羞恥心に身がすくんでも、滾るような熱に浮かされるようにゆっくりと待ち望んだ熱を飲み込んだ。  「……んっ……あっ……ああっ………ああああーーーー」  身体を貫く灼熱に隘路を押し開かれ、駆け抜ける目も眩む快楽に奥まで飲み込んだ瞬間、アデーレは深く絶頂した。  「……あぁ……あっ……あぁ………」  「ふっ……くっ……飲み込んだだけで果てたか。うねってキツく締め付けてるぞ。」  「あっ……やっ………あぁ………」  ガクガクと身体を震わせながら、深く達した余韻にアデーレの口から溢れる喘ぎは甘く蕩けていた。  「アデーレ、どうした?腰を振れ。俺を楽しませろ。」  「あっ……あぁ………」  「お前が籠絡されてどうする?ほら、腰を振れ。」  気持ちよすぎて動けもしないアデーレの細腰を、フェリオルが掴み下から突き上げた。  「ああーーー!!やぁ!やぁ!!」    激しい突き上げに火花が散るように視界が点滅する。奥をゴリゴリとフェリオルの雄が抉るたびに、電流を流されたように身体が跳ねる。責め苛むような快楽に思考がかき消え、理性を手放したアデーレは全身を満たす快楽に甘く啼いた。  「ああっ!いいっ!奥に……当たって……ああっ!!」  「くっ!!アデーレ、出すぞ!!」  「ああっ!!いいっ!いいっ!出して!出して!いくっ!いくっ!ああっ!あああーーーー!!」  激しい抽挿に寝台がギシギシと音を立て、最奥に放たれた白濁の熱さに、アデーレが肢体をのけぞらせて絶頂する。上体を起こしてアデーレを抱きしめたフェリオルが、呼吸を貪るアデーレの口内に舌を差し入れた。  「んふぅ……はぁ……んんっ……」    夢中になってアデーレも口内を舐る舌に舌を絡ませる。そうする間にアデーレの中に居座る雄は体積を増していく。  そうしてアデーレは意識が飛ぶまで、何度も繰り返し深い絶頂まで追いやられ続けた。 ※※※※※  ふと手放すように意識が途切れたアデーレを横たえ、フェリオルはその寝顔を眺めた。  「………アデーレ。そこまで役立ちたいと願うか。ならば叶えてやろう。」  うっそりと笑みを刻み、寝台からフェリオルが立ち上がる。部屋に散らばった衣服を拾い上げ、簡単に身支度を済ませると扉を開けた。  「シベロ、予定を早める。2日後だ。エリックに伝えておけ。」  待ち構えたように控えていた側近が、その言葉に絶句したように目を見開いた。  「そ、れは……」  「2日後だ。準備を進めろ。」  にべもない主の態度に、シベロは反論を飲み込んだ。スッと礼をして、そのまま駆け出した。  「もとよりもう、お前に選択肢はない。」  月明かりに照らされたフェリオルが、美貌を不敵に歪ませた。      
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