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そういう危惧があるせいで結局、廊下までずるずる引っ張り出されてしまった。…もう。しょうがないなぁ。
「じゃあ見ててあげるから、後ろで。早く呼び出せば」
「うん。…」
そう言ったきり、出入り口から外れたとこで縮こまってもぞもぞしてる。ったくもう。
本人はどれだけ自覚があるのかわからないが。とにかくそこに立ってるだけでめちゃくちゃ目立ってる。ふんわりした茶色の柔らかな髪を高い位置でポニテにしてる学年随一の美少女が、滑らかな白い肌の頬を染めてバレンタインに何やら包みを持って恥ずかしそうにもじもじして佇んでるんだよ?そりゃ男子たち、何事かとそわそわしてこっちを伺うよな。
わたしは舌打ちして仕方なく、その脇をすり抜けてさっさとHRの終わった隣のクラスの教室を覗いた。彼が帰っちゃってたらもう、ここでこんなことしててもしょうがない。とりあえず仕切り直すしかないし。
ちょうど教室を出て行こうとする顔見知りの男子とばったり鉢合わせになった。
小学校が一緒だったやつだから、六年間プラス保育園からの知り合いってことで取り立てて仲良くはなくともお互い存在を認識してはいる。そいつはわたしの顔を見るなり、何故か何かを察した表情になり勝手に合点して頷いた。
「あ。…もしかしてあいつに用か?確かまだいるよ。ちょっと待ってな」
いきなり振り向いて教室の中に向けて奥山ぁ、客だぞ!とでかい声で呼びかけた。何でだよ。
いや間違っちゃいない。間違ってはいないが、わたしが口に出して尋ねるより先に奥山くんと結び付けられた理由はわからない。さも当然みたいな対応が何だか釈然としない。
まだHRが終わったばかりで大勢がそのまま教室内に残った状態の隣のクラスの連中が、ざっとそっちを伺った視線の先に確かに奥山くんがいた。
何でこうなったかは不明だが、とにかく目立ち過ぎる美少女を矢面に出さずにターゲットを呼び出すことには成功した。ぐだぐだ言わずに最初からこうしてれば話は早かった、と認めるのも癪な複雑な気分でわたしはそのまま彼に向かって手招きをして見せた。
「ちょっと。…少し時間、大丈夫?すぐ終わるから。一緒に来てもらっていい?」
「あ。うん」
久しぶりに顔を突き合わせた彼はちょっと目の下あたりをほんのり上気させて、落ち着かない表情で視線を彷徨わせて頷いた。
だいぶ身長が伸びたな。と向き合ったときの目の位置の変化を見て取り思う。
前はわたしの方が大きくて、こうやって近くで向かい合うと彼の頭の天辺を見下ろせた。
今はほとんど目が同じ高さだ。このペースじゃ抜かされちゃうのかな。一応まだこっちも成長止まってはいないんだけど。あとは奥山くんの伸びしろがどの程度残されてるか。そこで今後の決着が左右されることになりそうだ。
わたしは傍らで縋るような眼差しをこっちに向けているだりあを見下ろして、顔つきで一緒についてくるよう促した。
先に立ってずんずんと歩き、なるべく人けのないあまり使われてない階段の方へと二人を誘導した。
なんかわたしが場を采配してるみたいな流れになってる気がする。けどしょうがない。
なんて言ってもだりあは目立ち過ぎる。こんな女の子が頬を染めてバレンタインに思い詰めた表情でチョコを抱えて佇んでたら。
そりゃ通りすがりの男たち、みんな気になってそわそわしてこっちを伺うよな。結果的にもし二人の仲が上手くいくならそれはそれだけど。
告白が不調に終わる可能性だってもちろんあるし。学年全体に知れ渡るほどことの顛末を今から公にすることはない。人目につかない静かな場所を選んで落ち着いた状況で渡せればそれに越したことはないと思う。
こっちを伺ってくる他人の視線が完全に切れたのをざっと確認して、足を止めたわたしは大人しくついてきた奥山くんとだりあの方に向き直ってようやく口を切った。
「…奥山くん。忙しいところ申し訳ないけど。この子が話したいことがあるって。ちょっと、聞いてあげてもらえないかな」
「あ。…うん」
彼は何故だか少しびっくりした様子で改めてだりあの方を見た。何となく、頭の中がいっぱいいっぱいでそれまで状況が把握できてなかったのがそこで不意に我に返った、みたいに思えた。
二人がお互いに顔を見合わせたところでわたしは安心してこっそり身を引いた。やれやれ、ここまで来たらあとは何とかなりそうだ。
逆にこのまま立ち会ってうっかりだりあの告白を聞いちゃうのもどうかと思う。そもそもわたしはこの人たちがどうなろうと別に関係ないんだし。
これだけお膳立てが済んでたらさすがにどんだけだりあが腰抜けのへなちょこでももう口火は切れるだろ。と考えてさり気なくフェイドアウトしようと音を立てずに後退りしてたら、目敏くわたしの行動をチェックしてたらしいだりあが逃すものか。とばかりに鷲掴みでひしとわたしの腕を掴んで引き留めた。
「も少し待って。…ここにいて、うゆちゃん。ちゃんと最後まで付き合って。すぐ終わるから」
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