第3章 羽有ちゃんと天然あざと美少女

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それはそれとして、わたしをフォローしなきゃならない。という使命感に駆られてるらしく断固とした口振りで慰めの言葉を並べ立てる。 「特に並んで釣り合いが取れてないってことないよ。お前はお前でまあ。単に木村とはタイプが違うってだけだし。…侑みたいな単細胞な奴にはいかにも可愛らしくてふんわり優しい雰囲気の女子しか、女に見えない。って特殊なフィルターかかってるだけだからな。カッコいいとか凛々しい、みたいな方向の要素評価する頭脳なんてないだけで」 「…わたしのことを別に。殊更に女子扱いしてもらう必要もないから。そこは気にしなくていいけど」 こっちだって全然堂島のこととか、男としてどうこう考えたこと一度もないわけだし。そこはお互い様だから気にはならない。 夕方の空気の中を早足でさくさくと歩いてると、気持ちのいい涼しい風でさっきかいた汗が一旦すうっと引いていくのがわかる。このあと道場に行って稽古したらまたどうせじっとりとなるんだけど。 わたしは一応義憤を感じて割って入って遠ざけてくれた越智の心遣いには感謝の意を表明しないと。と考え慎重に言葉を選んだ。 「まあでも、越智がわたしに気を遣ってくれたのはわかるし。正直堂島なんかにどう思われてても屁とも思わないけど、その気持ちはありがたいよ。お礼にあんたにはなるべく、あの子の情報をときどき伝えてあげる。わたしが覚えてたらだけど」 「お前がありがとう言う日が来るなんて、人ってそれなりにいつかは成長するもんなんだな。…いやまあ、別に。木村の普段の様子を教えてくれなんて。そんな動機で横から口出したわけじゃないけどさ。俺だって同じ教室にいるんだし」 照れたようにわざと明後日の方向に顔を向けながら、だけどやっぱり本心では気になって仕方がないのか。それとなく話の向きをそっちの方へと促してくる。 「あの子さ。俺たちと小学校は別だから、去年初めて同じクラスになって知ったんだけど。なんかちょっと天然ぽいっていうか。ふわふわし過ぎてて、微妙に女子の中で浮いてんだよな。まああの見た目じゃ…。もしかして目を惹くぶん割と妬まれやすいのかな、とも。思うけど」 「ふ。…ん」 しみじみと考え深げに呟く本人は大真面目なんだろうが、それを耳にしたこっちは一瞬ふっと声が漏れかけて慌てて口許を引き締めた。全く、余計な気を遣わせるんじゃないよ。うっかり声出して笑いそうになっただろうが。 やっぱりこいつも何だかんだ男なんだな。女子が可愛いとだいぶ贔屓目が強いというか、評価が甘くなる。いやあの子の場合確かに外見のせいで下手に目立ってるのが裏目に出てないことはないかも、だけどさ。 わたしが言うのもどの口で、とか言われそうだが。どう見ても彼女、個性が独特というか。はっきり言うとちょっと素っ頓狂なコミュ障じゃん。 まあ同情的な見方をすればどっちが先かは断言しづらい。微妙に噛み合わないあの浮いた感じが元で敬遠されたのか、それとも輝くような可愛らしさのせいで幼少期から周囲に爪弾きにされることが多くてコミュ能力の発達に支障が出たのか。 案外理由なんかない可能性だってある。わたしだって別に何か原因があってこんな風に周りに溶け込めないし溶け込む必然性を感じない、独善的というか超自律的人格になったわけじゃないし。 両親はまあ多分普通だし娘から見ても呆れるくらい愛情は注がれまくってるのは明らかだから。まるで他人に愛着を感じないでずっとひとりでいても苦痛じゃないタイプの人間になったのは、おそらく家庭環境とか育て方のせいじゃないと思う。 だからってわけじゃないが木村だりあだって顔が可愛いだけが理由で周囲から妬まれ過ぎて友達が作りづらく、あんな風にクラスで浮くようになったかというと。そんな目に見えてわかりやすい原因からあの性格になったとは必ずしも言えない。 百歩譲って両方の理由かも。生来のテンポのずれと絡みづらさ、それに外見の特異さが相まって悪目立ちして。次第に周りから浮くようになって、結果生まれたときから13年間近く同じ狭い町に住み続けてるというのに、気安い友人の一人もいない状態に自然と陥っていったのかもしれないな。 そう思うとなんとなく、わたしはひとりでも平気だからできたらあまり構わないでくれる?とか言ってこっちから突き放してしまうのも気が引けなくもない。 今までもクラスで孤立した子がわたしの方に寄ってくることはよくあったし。どうしても我慢できないほど迷惑なら迷惑、ってはっきり言えばいいだけなのでそれほど気にしてはいなかった。それに大抵は放っておいても、わたしの反応の薄さに呆れて拗らせてた友達との仲を修復するなりさっさとそっちへ戻っていったし。 …そう、何が問題かというと。木村だりあの場合、戻っていくべき人間関係がそもそも最初からなかった。ってわけなので、自発的にわたしの許から去っていく可能性がちょっと弱い。…って、その辺りかな。 「…うゆちゃん!」
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