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空手が強いほど比例して射撃の腕が上がるんなら。…こんなにわたしがこてんぱんに越智なんかに水を空けられるわけないんだから。
「めっちゃ上手い、勇気のやつ。何なのいきなりの隠れた才能発覚?」
「すごーい、越智くん。あんなに当たるものぉ?あたし、全然弾飛ばなかったのに。さっきのと同じ鉄砲?あれって」
素直に感嘆する野崎とテンション上がってはしゃぐだりあの声を片耳で拾いつつ、わたしは虚しく終わった挑戦の結果を前に恨めしく鉄砲を返却した。悔し紛れに越智に向き直ってひと言声をかける。
「ずるいよあんた。射的経験者だったんじゃないか。わたしだってもうちょい練習できたら。…いや、どうだろ。無理か…」
「うゆちゃん、あたしとあんま変わんない。ほんとに運動神経とか空手の才能とかは関係ないんだね。…でも何か、嬉しいな。これはこれで」
心の底から楽しそうなだりあの声。それはそれは。喜んでもらえて何より。
越智は自分でもちょっと驚いてるのと内心から湧き上がる得意げな気持ちが混ざり合って滲み出てる複雑な表情で、当てた景品のぬいぐるみをだりあに渡しながらわたしの方を向いて応えた。
「いや、嘘とかついてない。まじで初めてだから。…でもこれ、結構当たると楽しいな。なんかハマるわ。俺射撃、マジでやろうかなぁ…」
「調子乗んな。本式の射撃、多分こんなもんじゃないわ」
小突いてやりたい気持ちを抑えて憎まれ口を叩き、みんなでその場を離れた。
何となく自然と射的の屋台をきっかけに空気がほぐれ、わたしたちはそれなりに馴染んで軽口を交わしながら賑わう境内の中をそぞろ歩いた。
「なんかね。この丘の下のあっちにため池あるじゃん?あとでそこで花火も上がるんだって。ほんの十数発くらいらしいけど」
この日のためにいろいろと下調べしたらしいだりあが、結局二人に割り勘で買ってもらったりんご飴を舐めながらため池のある方角を指し示しつつ教えてくれる。
「池の方向そっち?ここ、俺ら地元じゃないから。土地勘今いちないわ」
越智が呟くのにわたしも同意して頷く。
「わたしと越智はここの学区じゃないから、小学校は。実はこの神社ってあんまり馴染みないんだよね。わたしは今回初めて来た。ちょっと家からは離れてるし」
一方でだりあと野崎はわたしたちと小学校が違うから。この神社は地元のはずだ。案の定野崎が頷いて、わたしの台詞を受けて説明した。
「俺と木村はここが地元だからな。少なくとも俺は、ちっちゃい頃からよく親に連れられてこのお祭りに来たよ。…なんか懐かしいな、そう思うと。この境内、ガキの頃は。もっとめちゃくちゃ広く感じてたなぁ…」
「そうか?今中学生の目で見ても。充分広いよ?」
思わずそう言ってざっと辺りを見回す。普通の夜祭りってどのくらいの規模なのかよくわからないけど。
こんな田舎にこれだけの人がいたんだな、って感心するほど夜店の間の通路にみちみちに人波がごった返している。そんな店の列がいくつも交差してるし。神社の境内ってすごく広いんだなあ、と結構感心してたのに。
「あ。…ちょっとやば。木村、こっち側に行こう」
不意に野崎が抑えた声で呟いてだりあを脇道の方へと促して、わたしと越智についてくるよう目で合図しさっさと歩き出した。
「何だよどうした急に。…補導でもされそうになったか。先生誰かいた?」
今夜くらい夜出歩いてもさすがに大目に見てくれるだろ。大体うちの中学のやつさっきからいっぱい会うぞ、と文句言いながらも急いでその後ろから追いつく越智。だりあの背中に軽く手を添える素振りで急がせながら、野崎はちょっと神経質に感じられる声で端的に説明した。
「いや、うちの小学校から。隣の中学に行ったやつだけど、できたらちょっと避けたいのが。…うちの学区って、中学進学するとき二つに分かれるんだけど。そっちに行ったので微妙に柄悪い連中がね。目に入ったから…。阪口っていただろ、木村覚えてる?阪口陽」
「ああ、ヨーくん。そりゃわかるよ。めっちゃ強くて。結構人気あったよね」
野崎の緊迫した様子からは呆気なく思えるほど、だりあの方は警戒心なく無邪気な声を弾ませた。
野崎はその反応には取り合わず、わたしと越智の方に向かって張り詰めた声のまま説明の先を続ける。
「小学生の頃は硬派気取ってて男連中周りに従えてたんだけど。中学進んでからはやたら可愛い女の子に執着し始めて、次から次へと取っ替え引っ換えでひどいらしい。木村なんて絶対めちゃめちゃ狙われるって。…本人絡んでくるだけならまだいいんだけど、天ヶ原に顔面蹴り飛ばしてもらえばいいだけだし」
「いや素人と野良では。そこまでする気ないよ…」
心得のないやつ下手にやって殺しちゃったらやばいから。と思わず口を挟むが、まだ緊張を解かない野崎は周囲に気を配りながら急ぎ足で言葉を継いだ。
「あいつの場合、家がさらにやばくて。阪口組っていう地元を締めてる土建屋の息子なんだよ。だからってわけじゃないけど常に取り巻きもいっぱい連れてる。…田舎の有力者のボンボンだよ。ここで目をつけられないで済めばそれに越したことないな」
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