第3章 羽有ちゃんと天然あざと美少女

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好きな女の子をからかったり構ったりする小学生男子の中二女子版って感じ。直に本人を構う勇気はないから彼の昔の知り合いであるわたしっていうワンクッション置いて、安全にスリルを味わってるっていうか。考えるといちいち遠回し過ぎてややこしいことしてる、この子。 卒業まであと一年と少し、木村だりあがこのまま変わらずにずっとわたしのそばにまとわりついてるとは限らない。だけど三年に進級するときクラス替えはないし。 二年になってから一年近く経っても他に女友達を作る様子もないから来年もこうして向こうのペースでくっついてくる気配が濃厚だ。だとしたら、ここらで一丁いい加減何かにつけて隙あらばわたしに奥山くんを押しつけようとしてくる行動パターンを一回正しておきたい。 そのためにはちゃんと逃げずに自分の気持ちに向き合って認めてもらわないと。奥山くんの話をしたい、彼にチョコを渡したいと思ってるのは。わたしじゃなくて本当はだりあ自身の方だってこと。 「後悔…、そう。かなぁ…?」 こっちが予想してたより早くぐらつき始めた。案外とこの子、自分の気持ちをわたしに対して隠すつもりないみたいだ。もっと、そんなことない。あたしはただうゆちゃんのためを思って言ってるだけで自分が彼とどうこうなりたいなんて。全然考えてないんだからね!とか言い張って抵抗するかと思ってた。 実はだりあとしては奥山くんのことを好きなのはとっくに自覚済みで、ちらちら会話の端々で匂わせてちゃんと突っ込んでほしい。そして渋々を装いながらもわたしの前で思いを認めたい、って願望がずっとあったんじゃないか。ってことに今さらながら気づいた。 それならそうともっと早くはっきり言ってくれればいいのに。わたしは肩をすぼめて小さくため息をつく。 匂わせとか察してとか、わたしに通じるわけないじゃん。最もそういうのに向いてない相手に向けてずっとそれ、してたのか。 二年に進級して同じクラスになって以来、頑張って突っ込み待ちしてたのかもと思えばさすがに気の毒な気もするけど。 そんなとこまで気が回るんならそれはもうわたしじゃないんで。むしろ一年も経たずにこうやって勘づいたことを我ながら褒めてやりたい。 「…そうだよね。奥山くんて、中学卒業したら東京の高校に進むんじゃないかってみんなが言ってるの聞いたことあるし。だとしたら、もうあと一年しかない…。うゆちゃんは聞いてる?その話」 完全にもう告白側に傾いてる。わたしは隠すこともないので素直に知ってる範囲のことを答えた。 「親同士が保育園時代の知り合いだから。なるべく早めに東京で音楽科のあるとこにお母さんが進学させたがってるみたいな話はずいぶん前に聞いた気がするけど、確かなことは知らない。てかせっかくだから。チョコ渡す気あるならそのときついでに本人に直に訊いたら?ここで憶測であれこれ考えててもしょうがないでしょ」 うゆちゃん彼に訊いてきてよ、とかこっちに投げられる前に素早くその道を封じておいた。 空手を一緒に習ってた頃ならともかく、部活もクラスも違って接点ないのにいきなりそんなことわたしが尋ねに行ったら。向こうから何かと思われるよ。 それにまあ、多分そうなるだろうなって推測だけでわたしは別に充分なので。あえてより確かな情報が欲しいってことはない。必要としてる人が自力で確認を取りに行くのが一番合理的だと思う。 「ていうか、せっかくだから話す用事あった方がいいじゃん。チョコ渡してじゃあ、で終わりじゃなくて。奥山くんは高校進学どうするのかって訊けば。ちょっとは場が保つでしょ、ぼーっと立ってるより」 「場が保つって…。相変わらず身も蓋もないなぁ。うゆちゃんらしいけど、言い方」 口を尖らせて文句を言いつつも、次第にその気になってきたらしく声の調子が浮き浮きと弾んで聞こえる。 「そっかあ、確かに。バレンタインのチョコ渡しに行くって考えてみたら普段話したりできない相手に声かけられるチャンスだもんね。そう考えたら…。イメージ的には下駄箱とか机にこっそり入れとくとか。うゆちゃんに渡してくれるようにお願いするとかだったけど、それじゃ顔も見られないし会話もできないか。もしかしたら勿体ないのかな。そうゆう間接的な渡し方だと」 「いや意味ないでしょ。自分で手渡してこそだよ。てか、そういう意義のイベントじゃない?そもそも」 わたしは急いで彼女の呟きを遮った。何で当然のように他人を巻き込もうとしてるんだ。勘弁してくれ。 「大体、下駄箱とか机に入ってるチョコ、本当に贈り主がその人か確証もないしさ。食べ物のことだし、なんか口に入れづらいと思うよ。本人がちゃんとその手で直に渡した方が向こうだって安心じゃん。そのついでに顔見せてアピールできるし、一石二鳥だよ」 そう。そもそも木村だりあの最大の武器はその容姿なんだから。直渡しの方が絶対破壊力あるだろ。すんなりそのまま両思いも夢じゃないと思う。奥山くんがごく普通の男子中学生の感性持ってるなら、だけど。 わたしが珍しく前向きに励ましてるのにも関わらず、その面ではだりあは自信なさげだ。
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