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03
石像の巨人は逃げ惑う兵たちを次々に斬り殺し、踏み潰していく。
指揮官を失った一団などこんなものかと思いながら、スピラは暴れている巨人へと飛びかかった。
その石柱のような足へと剣を振るい、振り落とされる剣を躱しながら何度も斬りつけるが、巨人にはびくともしない。
「足がダメなら!」
これでは通じないと判断したスピラは、敵が剣を振るタイミングに合わせて跳躍し、腕を伝って巨人の身体を駆けあがった。
そして剣を首へと突き刺したが、巨人は怯むことなく彼女を振り落とす。
武器を失ったスピラは、打ち倒した無数の石像が持っていた様々な武器を拾って応戦。
槍や斧を投げながら再び巨人の腕を駆けあがり、先ほどの一撃でヒビの入った首へ棍棒を振り落とす。
狙って投げていた武器の効果もあって、ダメージが蓄積されていた巨人の首がもげてバタンと倒れた。
「なんとかなったな。だが、こっちも全滅かよ……」
周囲は粉々になった無数の石像と首のない巨人の石像、さらには魔女狩りの一団に参加したすべての兵の死体で異様な光景になっていた。
格式高かった庭園が赤い血と肉片、バラバラになった石で埋め尽くされている。
それを一瞥したスピラは、持っていた棍棒を放り投げると、今度は落ちていた剣を拾う。
中にはもっと強力な魔女の使い魔がいるかもしれない。
手に馴染んだ武器が一番だと、彼女はできるだけ状態の良いものを選んだ。
ぶち破られた扉を抜け、スピラは屋敷内へと入っていく。
嫌な静けさだ。
まるでこれから葬儀にでも向かうかようだと思いながら、スピラは広い屋敷内を進んだ。
しかし、中には彼女を襲ってくる敵はいなかった。
きっと外にいた無数の石像や巨人の石像がこの屋敷の要だったのだろう。
油断はできないが、あれ以上の脅威はなさそうだと、スピラは判断していた。
それから調べていくと、ようやく人のいる部屋へとたどり着いた。
そこには黒装束を身にまとった老婆がおり、スピラはその人物に訊ねる。
「おまえが魔女か?」
老婆が深く被っていたフードから顔を露わにすると、突然スピアの体を光が包んだ。
それは魔術的な攻撃かと思われたが、彼女の身体には何の異常も痛みもない。
「今のはなんだ?」
再び訊ねたスピラに、老婆は笑みを返す。
その笑顔を見たスピラは、握っていた剣で老婆の胸を突き刺した。
魔女だと思われる老婆はその場にバタンと倒れ、スピラがその死体に近づく。
他にまだ調べていない部屋はあるが、十中八九この老婆が魔女だろうと彼女が思っていると周囲が光で包まれた。
先ほどの――スピラを包んだ光と同じものだ。
そのあまりの眩しさに彼女が目をつぶってしまい、次に目を開けるとそこには――。
「なッ!? これはどういうことだ!?」
剣で突き刺したはずの老婆が、どうしてだが目の前で笑っていた。
握っていた剣には血が付いていない。
「一体何をしやがった!? 答えろ!」
スピラが声を張り上げると、老婆はただ微笑んでいるだけだった。
答えないことに苛立った彼女は先ほどと同じく、剣を振って老婆を斬り殺した。
すると、周囲を光が満たしていく。
そして、気がつけばまたもや無傷の老婆がスピラの目の前に立っていた。
それからスピラは、数えるのを忘れるほど老婆を斬り殺した。
何度も剣を突き刺し、剣で殺す以外のやり方も試してみたが、状況は何も変わらず、ただ同じことを繰り返すだけだった。
「もうやめろ! やめてくれぇぇぇ!」
無限に続く時間に閉じ込められたスピラは、気が狂いそうになっていた。
剣を捨て、敵である魔女を前にしながらも、その場にひざまずいてしまう。
そんなスピラの姿を見た老婆は、大きくため息をつくと、ようやくその口を開く。
「やっと諦めてくれたね。さてと、ようやくこれで話ができるというものだよ」
「話……だと?」
顔を上げたスピラに、魔女はポットに入っていた紅茶を出し始めた。
自分と彼女分二つのカップへと注いで、部屋の中にあった椅子に座るように声をかける。
「まずはお茶にしよう。ちょっと長くなるからね。楽にしていいよ、スピラ」
「おまえは……あたしのことを知ってんのか?」
恐る恐る立ち上がったスピラに、魔女はにっこりと微笑んだ。
それからカップに入れた紅茶を一口飲むと、彼女の問いに答える。
「このロマリス帝国であんたの名前を知らない者はおらんだろう。ティンダーボックスの英雄、剣奴の希望とか、いろいろと二つ名も多いしね。そういえば聞き忘れていたけど。あんたは砂糖やミルクは入れるかい? うっかりしてて出してなかったよ」
「……さっきのはなんなんだ? あたしに何をしやがったんだ? これが魔女の呪いってやつなのか?」
スピラは気さくな態度で接してくる魔女の返事には答えず、質問を重ねた。
それは苛立っているというよりは、相手をする余裕がないといった様子だった。
そのことを察した魔女は、渋い顔をしながらも、スピラに問われたことを答える。
「さっきのは呪いなんかじゃないよ。もし名前をつけるなら……時の魔法ってところかね」
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