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わたしは言葉に詰まった。明らかに高齢のお客様に対して、寿命の話をするのは流石に憚られた。わたしが視線で助けを求めると、ミコトさんは引き出しから小型の砂時計を取り出した。以前、記憶の量を測るときに使った砂時計と同じ物だが、この前の物は砂の色が銀色で、こちらは青い。
「これを手のひらの中に握って頂けますか」
彼は砂時計を受け取って、言われた通りに右の手のひらの中に砂時計を握りしめた。
「その砂時計は、貴方の寿命が代価に足るか測るものです。当然ながら、貴方がお知りになりたくない事に触れる可能性がありますが」
ミコトさんが言うと、彼は動じた様子もなく、うなずいた。
「結構です。むしろ、残り時間がわかるのなら有り難い」
砂時計が測り終えるまでの時間が、わたしにはとてつもなく長く感じられた。自分の事ではないとはいえ、目の前の人の寿命を知ることになると考えると、冷静ではいられなかった。
「よろしいでしょう。お貸し頂けますか」
ミコトさんが、彼から砂時計を受け取って、ランプの明かりに照らしている。わたしは心臓が高鳴ってくるのを感じた。
「確かに、五千日分の寿命を確認しました。こちらでお支払いになりますか」
ミコトさんが聞くと、なぜか彼は寂しそうな顔をした。
「そうですか、まだそんなに残っていましたか」
この場合、少なくとも彼は十三年以上は生きていられる事を意味する。ひとまずホッとしたが、同時に彼の答えが気になる。彼の顔をうかがうと、何かを悟ったような表情で、ミコトさんを見据えた。
「寿命で支払おうと思います」
その答えを聞いたミコトさんの顔から微笑みが消えた。
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