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「本当によろしいんですね? 代価に足るとは申しましたが、お支払い後の寿命の残りは、決して長くはありませんよ」
真剣なミコトさんの表情に対して、彼は穏やかに微笑んでいた。
「人の生き方いうのはね、長さの問題ではないんですよ」
彼が言うと、ミコトさんがうなずいた。
「その通りです。では、魔法をお渡し致しますので、契約書にサインを頂けますか」
彼が差し出されたペンで名前を書き込む。真中アキオというのが彼の名前らしい。本人が納得した上の話とはいえ、十三年もの寿命と引き換えにする目的とはなんなのか。それ以上に、彼が寿命を失う事に対する抵抗感が拭えなかった。
「『時戻しの魔法』は、少々扱いが特殊な魔法です。一度しか使えない特性上、ご使用に際してサポートをさせて頂くことになっております」
「はい、よろしくお願いします」
彼が頭を下げると、ミコトさんは後ろの棚から帽子を二つ取り出して、片方をわたしに被せた。意味がわからず、ミコトさんを見る。
「これは、三分間だけ時を遡る魔法の帽子です。実際に魔法を使う前の予行練習を致しましょう。被ってみて頂けますか」
「あの、ミコトさん、なぜわたしまで」
わたしが聞くと、ミコトさんはにっこり微笑んだ。
「貴方はタイムキーパーです。これを持っていてください」
ミコトさんは金色の懐中時計のようなものをわたしに持たせた。
「その時計が丁度三分を指したら、竜頭をひねってください。こちらに戻って来れますので」
わたしは訳がわからないまま、彼が帽子を被るのを見守る。
「それでは、始めますよ」
ミコトさんが両手の人差し指を彼とわたしの帽子に向けると、浮遊感が襲ってきて、そのまま意識が遠のいていった。
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