魔法の代価

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 一、寿命を以て代価に充てる場合、十分な寿命が残っていない時は契約不成立とする。  一、労働を以て代価に充てる場合、自身の生命活動の維持、生理的現象の解消に費やした時間は代価として認められない。  一、記憶を以て代価に充てる場合、いかなる条件下でも、代価とした記憶の復元は認められない。  一つ目は、残った寿命が足らない時は駄目だということだろう。二つ目の注意は、普通の労働基準に近いものだと推察する。最後の注意は、記憶で払ったら、二度と元には戻せないということだろうか。 「ご理解頂けたようですね。それでは改めて、お支払いはどうなさいますか」  わたしは考えた。寿命を二百日程度失っても、そう大したことではないかも知れない。しかし、万が一その二百日すら、寿命として残っていないことを知らされたら。あるいは、失った二百日の間に、とても大切な事があると分かっていたら、死ぬ間際に後悔しないだろうか。 「焦る必要はありません。よくお考えになってお決めください」  そう言うと、店主の女性は席を立って隣の部屋に入り、数分ほどしてティーセットを持って戻ってきた。他に従業員がいる様子はなさそうだ。 「リラックス効果があるハーブティーです。よろしければ召し上がってください」  わたしの前に、高級そうなティーカップが置かれた。わたしは少し恐縮しながら、口をつけた。フルーティーな香りが鼻を抜けたあと、じわっと胸が温まる。  ここでの選択は、わたし自身の人生を大きく変えるはずだ。判断を間違えないようにしなければならない。わたしは一度深呼吸をして、彼女に向き直った。 「いくつか質問をしてもいいですか?」 「もちろんです」 「まず、本当に魔法が使えるようになるのですか? 失礼だとは思いますが、やはりこの目で見てからでないと、信用が出来ないというか」  彼女はわたしに微笑み返すと、頷いた。 「大抵の方はそうおっしゃいます。大きな代価を支払われるわけですから、そう疑問を抱かれるのは当然です」
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