魔法の代価

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 彼女はテーブル上の本に手をかざし、さっきまで開いていたページを見せた。 「この治癒の魔法は、外的要因による身体の外傷、欠損などに効果を発揮します。お体で実際に体験されてみますか?」  わたしの体に傷をつけて治す、という意味だろうか。わたしがためらっていると、彼女はわたしの右腕を指さした。 「失礼ですが、右腕の内側に痣をお持ちではないですか? 幼少期についたものと推察しますが」  わたしははっと息を呑んだ。確かに指摘された通りの痣があったからだ。記憶にはないのだが、二歳の頃、沸騰したやかんのお湯を浴びてしまい、火傷を負ったのだ。幸い大事には至らなかったが、割と目立つ痣が出来ていて、コンプレックスの一つでもあった。長袖のワンピースを着ているのに、彼女はそれを見抜いたことになる。  わたしは右腕の袖をまくって、肘の裏側にある痣を彼女に見せた。 「後天的に出来た肉体の変化は、治癒の魔法で元の状態に戻すことが出来ます。老化のような、自然発生的な変化には効果はありませんが」  彼女は痣の上に手をかざし、目を閉じた。彼女の手のひらから淡い光が溢れてきて、わたしの痣を包み込む。少しずつ痣の輪郭がぼやけてきて、薄くなっていくのがわかる。一分もかからないうちに、痕跡すら残さず痣は消えてしまっていた。  わたしはここが魔法を扱う場所だと聞いてやってきた。だから、こういう体験をするだろうことも頭の中では予想していた。しかし、実際に目の当たりにしてしまうと、理解が追いついてこない。 「いかがでしょう。アヤ様の願いを叶えるに足る魔法であることは保証致しますよ」  そう言うと、彼女はまた優しく微笑んだ。この人はわたしのすべてを理解している。そのとき、わたしはそう確信した。
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