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魔法の契約
「魔法のことはわかりました。確認したいのは、支払いのことなんですが」
「時間でのお支払いですね。時間の価値というものは、人それぞれです。例えば、二百日の寿命をどう考えるか、それはその方がどのように生きてきたかに直結します」
そう言うと、彼女はテーブルに置いてあった小さな砂時計をひっくり返した。音もなく砂が落ち始める。
「寿命、労働、記憶。どの方法で支払われるにしても、貴方にとっての貴重な時間に変わりはありません。寿命は未来の時間。いわば時間の後払いです。労働は現在進行形の時間で、時間の先払い。そして、記憶は過去の時間の切り売りです」
寿命はわかる。単純に生きていられる時間が短くなるだけ。ただし、この場合の問題は未来のことであるからこそ、今のわたしには、その価値の判断がつきにくいということだ。
労働の場合、今から二百日相当の時間を代価として支払うことになる。覚悟した上で働くのならば、心の準備も出来るかも知れない。
記憶は難しい。二百日分の記憶を失ったら、どうなるのだろうか。その間に体験したすべてが無かったことになるとして、その先の時間を生きているわたしにどんな影響があるのだろう。
「労働で支払う場合、どんな仕事をすればいいんですか?」
「我々魔導師の業界は人材不足なのです。労働を選ばれるのでしたら、我々の依頼を受けていただくことになります」
二百日分だから、毎日八時間働いたとしても、六百日。休みも考えたら三年近くにはなるか。
「出来れば、すぐに魔法を使えるようになりたいんですが」
「その点に関してはご心配なく。どのお支払いを選ばれても、契約成立の時点で、魔法は伝授させて頂きます」
そういうことなら、わたしとってはやるだけの理由と価値がある。生活費もバイトしながら稼ぐことになるだろうが。
「それなら、わたしにも出来るかもしれません」
わたしが答えると、少しだけ彼女の笑みが薄れた。
「注意点をお読み頂いた通り、貴方自身の為に消費された時間は、代価として認められません。つまり、仕事を通して、貴方が何かを得たり、幸福を感じられたとしたら、その時間も代価足りえません。それでもよろしいですか? 申し添えておくと、労働を選ばれて、最後まで労働のみで支払われた方はいらっしゃいません」
楽しい労働など存在しないという考え方か。確かに、あまり時間がかかり過ぎるようでは困るが。
「先程のお話だと、途中で契約変更も可能、ということですよね」
「可能ですが、その場合は変更手数料が発生します」
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