魔法の契約

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「鏡の前にお立ちください」  祭壇と言っても、銀色のフレームの大きな鏡が置いてあるだけで、何かを祀ってあるわけではなさそうだった。鏡の前に立ったわたしの姿が映っているが、隣に立っている彼女は映っていない。やはり、この人は人間ではないのだろうか。 『今この時より、この者に魔導の力を分け与える。契約せしめるは、治癒の力なり』  彼女が天を仰いで、何かを唱えた。天井のステンドグラスから光が降りてきて、わたしを包み込む。身体がぽっと暖かくなった後、一瞬だけ全身の神経に電気が走ったような感覚があった。 「魔法が使えるようになったはずです。先程ご覧に入れたように、手のひらから魔法を発動してみてください」  わたしは自分の手のひらを見つめた。どこも変わったような様子はない。ただ、頭の中でわたしは理解していた。息をするように、わたし自身が魔法を使おうと思えばいつでも使える。上に向けた右の手のひらから光の玉を生み出してみる。これが治癒の力なのだ。  夜の病院の個室。チューブに繋がれた妹がベッドの上で眠っていた。彼女は信号を無視したトラックから、わたしをかばって事故にあった。頭を強く打ち、意識が戻らなくなって間もなく一年。医者もさじを投げていた妹に、本当に魔法が効くのだろうか。  わたしは祈りを込めて、妹の頭に右手をかざした。  別の日の月夜。わたしは再び魔法店を訪れていた。妹の意識が戻ったお礼と、今後の話をするためだ。 「お礼は必要ありません。貴方は相応の代価を支払われたのですから」  店主は相変わらず、優しい笑みでわたしを見た。 「それで、わたしはどんなお仕事をすればいいんでしょう」 「そうですね。依頼は沢山あるのですが」  彼女はしばらく砂時計をいじっていた。 「妹も治せたので、わたし、なんでもやりますよ」 「……では、ここで助手をやってみませんか?」 「え?」  わたしは思わず、彼女の笑顔を見つめ返した。
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