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改めて地平線を端から端までぐるりと確認する。
それを見つけた瞬間、わたしは息を呑んだ。真っ暗な空の中に、青い星が浮かんでいる。あまりにも現実離れした光景に、言葉を失ってしまう。
「……月は、私の夢だったのです」
山野さんは青い地球を見ながら、目を潤ませているようだった。
「子供の頃、父親に買ってもらった望遠鏡で、毎日月を見ていました。いつかあそこに行くのだと、根拠のない自信を持ってね」
彼は少し恥ずかしそうに笑った。
「宇宙飛行士になろうと必死に勉強しました。ところが、選抜試験に受かった矢先に、事故に遭ってしまいましてね。神は居ないのだと、その時は思いました」
わたしは彼の足に目をやった。彼が事故に遭った直後に治癒の魔法を使えたら、彼の運命も変わったのかも知れない。
「それが、こうしてこの星に立って、この光景を見ることが出来るとは」
そう言って、山野さんはしゃがみ込んだ。わたしが手を貸そうとするのを遮って、彼は地面に手を付けた。
「地球から見た月はとても神秘的で、私の知らない鉱物や、宝物が沢山眠っているに違いないと期待していたものですが」
「……違いましたか?」
わたしが聞くと、彼は微笑んで首を横に振った。
「もちろん、気持ちは変わりません。ただ、ここに立って改めて思ったのです。……やはり、私たちの地球こそ美しいと」
「……そうですね」
わたしたちはしばらくの間、青い地球を眺めていた。
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