記憶の残り香①

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記憶の残り香①

 昔々、竹の中から生まれた美しい姫は、五人の求婚者たちに難題を出し、退けた。姫は月の世界に帰ったとされるが、その後の姫は幸せになったのだろうか。 「何、たそがれてるの」  お店の窓から空を眺めていたわたしは、マナがいつの間にか隣にいたことに気づかなかった。店から見えるあの月は、月ではないのだという。 「このお店が月の上にあったなんて、信じられなくて」 「魔法が存在するんだもの。わたしはこのぐらいのことじゃ、驚かないよ」  マナが言うと、背後で鐘のような音がして振り向いた。 「ぎゃあ」  マナが叫んで、腰を抜かしたように座り込んだ。恐ろしげな怪物の顔があったからだ。 「ビックリした?」  怪物のお面の下から、ハルカちゃんの顔が現れて、ちろっと舌を出す。 「それ、どこにあったの?」 「ミコトさんの机の上だよ。これと一緒に」  ハルカちゃんはハンドベルのような物を手にしている。 「どこかのお土産かな」  ミコトさんは只今お出かけ中だ。わたしたちは留守番で、お客様が来たら待ってもらうようにと言われている。 「ミコトさんって謎だよね」 「うん、このお店の最大のね。正体はかぐや姫だったりして」 「あはは、かぐや姫は日本人でしょ」 「いやいや、ミコトさんも日本人……だとわたしは思ってるけど」  改めて思い出してみると、ミコトさんの風貌は日本人離れしている。艶のある黒髪に、ミステリアスな瞳。いつもエキゾチックな占い師のような服装なので、中東系の匂いがしなくもない。
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