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お面の表面がぼんやりと輝き、空中に光のスクリーンが現れた。何かの映像が映し出されている。
「お面の近くにいた人の記憶の映像だよ」
左右に並ぶ丸い穴。穴の向こうに星空が見える。どうやらお面越しに見た夜空のようだ。
『……ねえ、お父さん、アカガイってどんなやつなの?』
『誰も見たことのないヤツなんだ、わかる訳ないだろ。いいから、空から目を離すな』
子供の声に、男性と思われる低い声が答えた。
「親父の声だ」
石橋さんがすぐに反応した。これは、お面に記憶された、かつての光景ということらしい。
場面が変わって、焚き火を囲んだ二人の姿が映し出された。星空の下でキャンプをしている。
『誰も見たことないのに、なんでいるってわかるのさ』
ご飯を食べながら、石橋少年が聞いている。
『伝承や伝説っていうのはそういうものさ。大昔に実際にあった出来事が、人を通して伝わっていくんだ。まあ、時間が経つうちに形を変えることがあるがな』
『それって、嘘が混ざるかも知れないじゃん』
『ハハハ、そうかもな。でも、それもまたいいじゃないか』
お父さんが笑うのを、石橋少年が不満そうに見ている。
「……まったく、適当な事を」
石橋さんがつぶやいた。その表情は微笑んでいるように見える。
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