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映像が切り替わり、テントの天井に空いたメッシュ状の窓から、月がうっすらと透けて見えている。
しばらくの間、寝息が聞こえているだけの映像が続いたが、テントに誰かが入ってくる音がした。画面横から現れたのは、眼鏡をかけた白髪混じりの男の人だった。彼は寝ている誰かの様子をじっと観察している。
石橋さんが驚いた顔で、映像を凝視した。これは石橋少年を見守る父親の姿なのだ。
お父さんは寝顔をしばらく見守っていたが、優しい手付きで毛布をかけた。
映像はそこで終わった。石橋さんは、お面を手に取って顔につけた。
「……親父は不器用な男なんです。思っていることを伝えるのが下手くそで。多分、『アカガイ』の件は、親父なりの愛情表現だったんでしょう」
そう言う彼の声は少し震えていた。
「子供の頃に両親が離婚しましてね。僕は親父に引き取られたんです。二人で出かけるようになったのもその頃です」
母親のいない寂しさを知るハルカちゃんが、彼の顔をじっと見ている。
「寂しがっている僕のために、『アカガイ』なんてでっち上げて。全く、回りくどい親父だよ」
寂しさと懐かしさ入り混じった口調だった。
「でっち上げ?」
「隠しててゴメンね。実は『アカガイ』は親父が作った偽物の伝承なんだ。気づいたのは最近だけどね」
わたしたちがキョトンとしていると、彼はお面を取って頭を下げた。
「僕の母親の名前は『カグヤ』といいます。『アカガイ』は『カグヤ』のアナグラムなんですよ」
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