読心の魔法①

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読心の魔法①

 わたしが魔法店の助手になって二週間。今のところ、やるべき仕事は、ほぼ雑用しかない。夜にしか店を開けないので、勤務時間は必然的に深夜帯になる。予想外だったのは、労働に対する賃金が発生することだ。お金を貰ってしまうと、支払うべき対価が目減りしないのか心配したが、特殊な勤務形態に適用するための必要経費ということらしい。そのおかげで、昼間に別のバイトをする必要もなく、わたしは魔法店に勤める従業員として生活をすることになった。  労働環境自体に不満はないのだが、一つだけ気になるのは、今のところ、一人もお客さんが来ていないことだ。 「明日はお客様がいらっしゃいますよ」  わたしの心配を見越してか、ミコトさんが優雅に笑いながら言った。 「予約でも入っているんですか?」 「来るべき時に、お客様はやって来るのです」  わたしの質問ははぐらかされたのだろうか。ミコトさんが言うのだから、間違いないと思えてしまう自分もいて、なんとも言えない気持ちになる。  翌日の午後八時。ミコトさんに紅茶を淹れていると、入り口の鈴が鳴る音がした。 「あの、すみません」  消え入るような小さな声だった。眼鏡をかけた細身の女性が、怯えた表情で入り口に立っていた。 「いらっしゃいませ。こちらにお掛けください」  わたしの時と同じように、ミコトさんが彼女に椅子を勧める。彼女は軽く頭を下げると、椅子に座って背中を丸めた。わたしはハーブティーの用意をして、彼女の前にカップを置いた。 「今日はどのようなご要件ですか」 「ここで魔法が買えるというのは……」  彼女はミコトさんの顔をうかがいながら聞いた。 「取り扱っておりますよ」  ミコトさんがわたしに目配せする。わたしは後の棚から魔法事典を取って、テーブルの上に置いた。ミコトさんが手をかざすのに反応して、ページがめくれていく。わたしは先日、この魔法事典を読破していた。ミコトさんの助手をやるために必要な知識になるので、自分用に一冊貰ったのだ。 「なるほど、読心の魔法をご所望ですね」  読心の魔法とは、人の心を読み取る魔法だ。そんな魔法を欲する彼女の悩みが気になってくる。 「お支払いはどうなさいますか?」  ミコトさんは、立ち入った事は一切聞かずに、カードにペンを走らせた。
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