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石橋さんと一緒にお店の前に戻ると、明かりが消えていた。
「すみません、店主はもうすぐ戻ると思うんですけど」
わたしは玄関先のスイッチを入れたが、何故か明るくならない。
「電球が切れたかな」
「わたしが見てみるよ」
と、先に中に入って行ったマナが、急に叫んだ。
「出た、アカガイ!」
腰を抜かしたマナの目の前に、薄ぼんやりと人の顔が浮かんでいる。よく見ると、それは顔の下から懐中電灯を照らしたミコトさんだった。
「お帰りなさい、皆さん」
「びっくりさせないで下さいよっ」
意に介した様子もないミコトさんに、マナがぷりぷりと怒っている。
「ごめんなさい、電球を替えていたものですから」
ミコトさんが手にした新しい電球が、ふわりと空中を漂い、天井のソケットにセットされる。月明かりでぼんやりと青く光って見えるので、人魂に見えなくもない。
「お待たせしました」
ようやく明るくなった店内で、ミコトさんが石橋さんに会釈した。
「そちらの品で間違いなかったですか?」
「ええ、正真正銘、父親の物でした」
石橋さんは満足そうに答えた。お面が本物であることは、彼のお父さんの記憶を見たわたしたちも証人だ。
「では、こちらの受領証にサインを」
ミコトさんが引き出しから見慣れない書類を取り出した。このお店にはわたしの知らない業務がまだあるらしい。
いつものキャンディを受け取って帰っていく石橋さんを見送りながら、じわりと胸が温かくなる。
こんな調子では、わたしの代価の完済はいつになるのやら。マナたちも楽しそうなので、それでもいいと思えてきていた。
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