93人が本棚に入れています
本棚に追加
ご注文 No・095 読心の魔法
現金でのお支払い 720万円
時間でのお支払い 300日
女性はカードを見て少し驚いたようだ。わたしの治癒の魔法よりさらに高い。この価格設定については何も聞かされていないが、どこに基準があるのだろう。
ミコトさんは、時間で支払う方法と、契約変更のルールを彼女に説明した。この手順は助手のわたしがやるべきかも知れない。わたしは復習の意味も込めて、頭の中で反芻した。
一つ目は寿命。未来の時間を代価とする方法。
二つ目は労働。わたしも選んだ、現在進行形の時間を代価に充てる方法。
三つ目は記憶。過去の時間を代価とする方法。
さて、彼女はどれを選ぶだろうか。当事者でもないのに、ドキドキしてきてしまった。
彼女は契約書をしばらく見つめていたが、顔を上げてミコトさんと視線を合わせた。その表情には決意が満ちているように見える。
「記憶で支払いたいです」
躊躇する様子もなく、彼女は答えた。先程までのおどおどした雰囲気が無くなっている。
「よろしいのですか? 先程も説明した通り、一度失った記憶は二度と戻ることはありませんよ」
ミコトさんの表情から笑みが消えている。
「構いません。わたしの過去の記憶なんかに価値はありませんから」
吐き捨てるように彼女は言った。わたしには怒りの感情が混じった口調に聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!