読心の魔法①

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 ご注文 No・095 読心の魔法  現金でのお支払い 720万円  時間でのお支払い 300日  女性はカードを見て少し驚いたようだ。わたしの治癒の魔法よりさらに高い。この価格設定については何も聞かされていないが、どこに基準があるのだろう。  ミコトさんは、時間で支払う方法と、契約変更のルールを彼女に説明した。この手順は助手のわたしがやるべきかも知れない。わたしは復習の意味も込めて、頭の中で反芻した。  一つ目は寿命。未来の時間を代価とする方法。  二つ目は労働。わたしも選んだ、現在進行形の時間を代価に充てる方法。  三つ目は記憶。過去の時間を代価とする方法。  さて、彼女はどれを選ぶだろうか。当事者でもないのに、ドキドキしてきてしまった。  彼女は契約書をしばらく見つめていたが、顔を上げてミコトさんと視線を合わせた。その表情には決意が満ちているように見える。 「記憶で支払いたいです」  躊躇する様子もなく、彼女は答えた。先程までのおどおどした雰囲気が無くなっている。 「よろしいのですか? 先程も説明した通り、一度失った記憶は二度と戻ることはありませんよ」  ミコトさんの表情から笑みが消えている。 「構いません。わたしの過去の記憶なんかに価値はありませんから」  吐き捨てるように彼女は言った。わたしには怒りの感情が混じった口調に聞こえた。
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