○月○日

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○月○日

      「姉ちゃん! 赤ちゃん生まれたって!」  病室に駆けこむなり、母ちゃんに頭をどつかれた。 「ったあ、息子がさ、大事な姉ちゃんのために、とにもかくにもお祝いに駆け付けたってえのに、なんだよ?」  大声で物申し、もう一発殴られたところで、病室内の空気がおかしいことに気づいた。  ベッドの姉ちゃんが枕に顔を埋めて静かに泣いている。  母ちゃんはもう俺に構わず姉ちゃんの横に腰かけてそっと背中を撫でていた。 「義兄さん――ど、どうしたの、ま、まさか」  今度はできるだけ小声で、僕の隣に立つ姉ちゃんのだんなに聞いた。 「赤ちゃんは無事に生まれたよ――」  義兄さんが姉ちゃんのベッド横の窓際を指さし、 「三つ子の女の子だ――本当は四つ子だったんだけど一人ダメだった――」  そこで口を噤む。言葉に反応して姉ちゃんが慟哭したからだ。義兄さんの目には今にも溢れんばかりの涙が浮かんでいた。  僕はゆっくりとベビーベッドに近づいた。小さな三つのベッドには天使――いや猿に近い赤ちゃんが眠っている。  個々の枕元には遠藤ベビー長女ちゃん、次女ちゃん、三女ちゃんと書かれたネームカードが掛けられている。  オレは惹かれるように三女ちゃんのベッドを覗き込んだ。  小さな小さな赤い猿――いや赤ちゃんが眠っている。ガーゼの産着の袖から、これまた小さな小さなぎゅっと握られた両手が出ているが、その左手はもう一人の手を握っていた。  どういうこと? って思うだろ?  僕だってわからない。  なので、見たまま言う。三女ちゃんのベッドには三女ちゃんと手をつないだもう一人の赤ちゃんがいた。  その赤ちゃんは猿どころか、人というにはあまりにも悲しい姿形をしていて瞼のない目で僕をじっと見ていた。
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