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わたしにはお兄ちゃんがいた。
何時からか、家族の誰もが
お兄ちゃんのことを避けるようになった。
悪い冗談だと思った。
風呂も、食事も、会社にだってまともに行ってない。
この存在が無かったことに出来ればいいのにと陰で罵られた。
あのころのお兄ちゃんはもう居ないんだ、
そう言い聞かせられた時期もあった。
だが、実際にココに居る。
学生時代辛かった時も、
社会人になってへとへとに疲れたときも、
お兄ちゃんの為に家族で一緒に過ごしてきた。
幽霊なんてものが存在するのなら、
年齢をとっても変わらないお兄ちゃんは、
ホントに幽霊ではないのだろうか。
昔とは違う兄を、独り言のように呼んでみる。
「お兄ちゃん…」
急に兄はその場でくるくると廻りだした。
酔っぱらって酩酊したように、
右へ左へフラフラと千鳥足になっている。
お兄ちゃんに見えている歪んだ世界。
わたしと勘違いして、ヤバそうなモノを連れて入院している。
兄の奇声は甲高く、冷たい景色に吸収されていく。
「サユキって、だぁぁぁぁれぇぇぇぇえ?」
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