怒涛の出産

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優菜が意識を取り戻したのは三日後だった。 大量に出血したらしい。輸血もして優奈は生死の境をさまよっていたと兄が話している。他人事のように薄目を開けて、うっすらと聞いていた。 自分に何が起こったのか、よくわからなかった。体が重くひどく疲れていた。 お腹が痛い。トイレに行きたいが下半身にへんな布が大量にまかれていて気持ちが悪かった。 喉が渇いて声が出なかった。意識は朦朧としている。よくわからない装置に繋がれて、足の裏に変な機械を装着されていた。機械音がうるさいと思った。 何だったっけこの機会…………考えた。そうだ血流を促すマッサージの機会だったような気がする。それだけ思い出してまた目を閉じた。   おっぱいが痛い。誰かが私のおっぱいを揉んでいる。搾乳しているようだ。無理やりほぐされてとても痛い。白いミルクの中に血が混ざる。声が出なかった。 ひと月が経ってやっと自分の状況が理解できた。私は出産した。兄の家でお世話になっている。子供はNICUにいる。 記憶が飛んでいた。酷い出血があったようで輸血をしたらしい。赤ちゃんは無事で思ったよりも大きく1800グラムの男の子だった。何度も車いすでNICUへ赤ちゃんに会いに行った。カンガルーケアで赤ちゃんを胸に抱いた。 掌にのるくらい本当に小さい赤ちゃんだった。 朝陽(あさひ)と名付けた。この子と初めて対面した時の朝の光が美しかったから。 自然と涙がこぼれた。無事に生まれてきてくれて本当に良かった。苦しい思いをさせてごめんなさい。 心の中で感謝の気持ちと喜びが溢れだす。 それから1か月が経ち、優菜は退院することになった。赤ちゃんはまだ入院している。もう少し大きくなるまで体重が増えるまでNICUからは出られないらしい。多分あと1~2ヶ月はかかるだろうといわれた。 「お兄ちゃんがいてくれて本当に良かった」 兄のおかげで自分と子供の命が助かった。親がいない分私の面倒をみなければいけない兄には本当に感謝している。 それと工場の奥さんもまるで娘のように私を心配してくれて、毎日のようにお見舞いに来てくれていた。 「お兄ちゃん……言い出しづらくて今まで訊けなかったんだけど……」 「なんだ?」 退院する日、優菜を兄が迎えにきてくれた。清算を済ませ赤ちゃんの顔を見た、しばしのお別れだ。自分だけ先に帰る寂しさに涙が出る。 「お兄ちゃん……子供の父親は……誰?」 もし父親がいるならばきっと病院に迎えに来ただろう。なのに来なかった。一度も御見舞にも来ないし顔も見せてない。 赤ちゃんの父親が誰なのか優菜は思い出せなかった。
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