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そんなある日、取引のある会社の社長から、飲みに行かないかと誘われた。場所は以前行ったことのある、昔優菜の働いていたキャバクラだった。
正直優菜を思い出してしまうので断りたかったが、懐かしさもあり、仕事での付き合いもあるので同行することにした。
そこで昔働いていた女の子が動画配信者となって有名になっているという噂を耳にした。
「キャバ嬢よりも儲かるんじゃないですか~。だってテレビは家にないけどスマホはみんな持ってるもんね。動画絶対みるし」
世の中の視聴率は全て自分たちの観ているもので決まる、と錯覚しているZ世代の若者。こういう話題で自分はおっさんだと改めて再認識する。
「顔を出していないので本人かどうか微妙です〜」
キャバ嬢たちは、それでも詳しく聞こうとする僕に、興味なさそうになさそうに答えた。
「声が全く同一人物なのよね」
そう言ったのは瑠璃というキャバ嬢だった。
僕の記憶が確かならば、この瑠璃さんという人は優菜を嫌っていた先輩ではなかったか。
「確か……瑠璃ちゃんだったかな。君は一年半前もここにいたよね?……えっとすごく可愛かったから記憶にあるんだ」
古参だと言われて彼女はむっとしたようだったので可愛いを付け足した。
瑠璃さんいわく、どうもその女の子は田舎暮らしをしていて、地元の食材でオーガニックな料理を作っているらしい。赤ちゃんと暮らしているという。
『赤ちゃん……?』
昔いたその女の子は、お店を辞めた後消息がつかめなかった。その時妊娠していたとしたら辞めた理由はそれだと瑠璃さんは話した。
もしその女の子が優菜だったら……そう思うといてもたってもいられなかった。
だがしかし妊娠とはどういうことか。
林はすぐにでも帰って、その動画チャンネルを確かめたかった。
適当に言い訳をし取引先の社長に挨拶をした後、林は走った。
人目も気にせず駅までの道を走った。
途中で踏切に捕まると、おっさんが何を焦ってるんだ。落ち着かなければ、と自分に言いきかせた。
キャバ嬢、1年半前に仕事を辞めた、動画配信、料理、田舎暮らし、妊娠、赤ん坊、次々と思い当たるワードが頭の中をかすめる。
僕の元を去った後、新しくできた恋人とともに子供を作り赤ん坊のために離乳食なんかを動画に上げているのかもしれない。そういう可能性も大きいだろう。
もしそうでなければ、赤ん坊が何ヶ月なのかが肝心だ。父親が自分である可能性が頭をよぎる。
少なくとも優菜はあの時は妊娠していなかった。
もしかして結婚したのだろうか?今は幸せに暮らしているのだろうか。
何度も繰り返し同じことを考える。
……彼女がいなくなった時期、あの時彼女は妊娠していたのではないか?何かが引っかかる。
全くそんな気配はなかった……またも記憶を辿る。
いや、確か調子を崩していた時期があった。吐き気を催しトイレに駆け込む姿を何度も見ていた。
顔面蒼白になる、その可能性はあったんじゃないか。なぜ気が付かなかった。
林は、これから、自分がすべき事、起こさなければいけない行動を頭の中で組み立てた。
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