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「私は優奈さんが妊娠していることを知りませんでした」
林は優菜の兄、雅人の前に正座をして頭を下げていた。
「もし知っていたならもちろん優奈さんの気持ち次第ですが、結婚をさせていただきたいと考えました。今もその気持ちでこちらへ伺っています。当時その事を知らない状態で就職先の病院にも、引っ越すと言っていた寮にも彼女はいなかった。驚いて、あちこち探しました。しかしながら彼女の消息は掴めないま時間が経ってしまいました」
黙って雅人くんは僕の話を聴いている。
「本人の考えで僕の前から姿を消したのかと思うと、私の年齢と、彼女との年の差もあります。彼女の意思を尊重しようと考え、今に至ります。けれど彼女の行方をもっと執拗に調べるべきだったと、今では後悔しています」
彼は沈黙の後、しばらくしてなるほどと話の続きを促した。
「先日彼女が子供を産みこちらで生活をしているということを偶然知りました。いてもたってもいられずに、失礼を承知で伺わせていただきました」
「優菜さんが産んだ子は間違いなく僕の子です」
是非優菜さんと話をさせていただきたいと思っています。そう言い林はもう一度深々と頭を下げた。
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