求めたのは……

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求めたのは……

 数年に渡る自粛生活でお家時間が増え、趣味がゴロッと変わった私は1人、PCを立ち上げ耳にイヤホンをさす。  アプリ等から誰でも簡単に動画やラジオ配信が出来る便利な世の中。年齢も性別、ジャンルもプロアマ問わず色んな配信者が溢れていて今は夏という事もあり怪談やカメラを持ちそういう場所に赴き肝試しをしている人達もいる。  アプリを開き、波長が合わせやすく面白そうな枠をおすすめ欄から物色する。  閲覧が多すぎるとヤラセのようでつまらないし、少なすぎてもつまらない。 指をゆっくり動かし何処の枠が良いか吟味する。  …… いた。 同時接続は32人。イケボカテゴリでサムネ画面の右端にカメラをつけ怪談朗読をしている枠。 低めのゆっくりと心地よい声を耳に、口角が緩むのを感じつつ、ほんの少し細工を施し、配信者の声にノイズを走らせ……  "―――― 楽しそうね、わたしも入れてよ?だって…… 求めたのは貴方達でしょ? " それだけで大概の怪談枠主は叫びコメ欄は怖気荒れる。その様を眺めるのは愉快だ。   が、今日は違った。 無風の中風鈴がチリンと遠くから聞こえたと思えば急に狂ったように高笑い、カメラを鷲掴みし覗き込む枠主の血走った目がアップされ、喉がヒュっとなった瞬間、力強く両肩をナニカに捕まれ 『悪戯する悪い子、見ぃ〜つけたぁ』とイヤホン外から生々しく低く地を這うような声が耳に纏わりつく。 浅くなる呼吸。 人の気配、捕まれた肩、未だにケタケタと愉しそうに笑う枠主の声が背後から聞こえる中、イヤホンからは 『 マジでビビった!! 配信切って玄関飛び出そうかと思った 』と愚痴る枠主の声が小さく聞こえ右端のカメラは血走った目の奥にコメントを読みながら談笑する枠主の姿。 ゾクゾクと震え依がる身体を抱きしめて振り向けずにいる私は―――― ゆっくり手を伸ばしカメラを起動し自枠の配信開始を押した。 写るかは解らないけど 今度こそ…… ―――― 本物の "放送事故" をご堪能あれ。 と願う。
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