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怪談師になりたい?なんとご奇特な。あ、失礼しました。折角興味を持たれたんだから、希望が持てるようなお話をしなきゃ駄目ですね、はは。
この仕事で強く印象に残ったことですか?そうですね、私としては、一人の怪談師の名前が浮かぶんですよ。
その人、本当に熱心でね。最恐の怪談師になるんだと言って、日々精進に励んでいました。その様子は、熱心というか、もはや執念という感じでしたね。
ある日、同じ楽屋になった時、新ネタを披露してくれるというんで、聞かせてもらいました。ただ、その話は大して面白くなかったんです。そういう事もあるんですよ。でも折角話してくれたんで、私は「いやあ、凄い話ですね!怖いですよ!」と反応しました。彼も「そう?やっぱ怖いでしょ」とか、ご満悦の様子でしたね。
ところが、それから2週間ほど後のことですが、その人、何と殺人罪で逮捕されたんです。
話によると、彼は私の時のように、楽屋で一緒になった人に自分のネタを披露したそうです。ところが、その相手は「つまんないね」とか、言っちゃったんですね。それを聞いた彼は、その後、怪談会が終わってから、相手を家まで尾行して背後から闇に紛れて絞殺したそうです。いや、びっくりしました。
ただ、その動機ですがね。彼が相手を殺したのは、けなされた怒りではなく、寧ろ冷静な行動だったんです。
最恐の怪談師になるにはどうしたら良いか、只管考え続けた挙句、彼は”要は自分の話を怖がらない人間がこの世から一人もいなくなれば良い”と思い込むようになっていたんです。だから、「怖くない」と言う人を片端から殺していけば、いつか自分は最恐の怪談師になれる筈だという、そんな狂った考えに取りつかれていたわけです。
私もあの時、正直に「つまらない」と言ってたら、殺されていたかもしれないんですよね。ええ、本当にあの時はぞっとしました。
ところで、今の話どうです?怖い?ねえ、怖かった?
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