姉妹に飢えた者たち

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 夜風に当たりすぎたせいか、少し肌寒くて人恋しい。 数分前まで体温を感じ取れる距離にいたのに、いつの間にか彼が遠くなっている。 「山岡くんも飢えた獣になるの?」 「俺はならへん! ……と言いたいけど時と場合によるわ!」 「時と場合……。今は?」 「今は人間と獣の真ん中まで行き来しとるかな。まぁ、ギリギリホモサピエンスやで!」  あまりにもあっけらかんとした口調で言うものだから、どこまで本気で受け取るべきなのか微妙だ。帰らせる為に脅かしているようにも見えるけど。 「アオイちゃん、どんなに優しそうに見えても男を信用し過ぎたらあかん。心が弱ってる時は誰かに縋りたくなるやろけど、俺はホンマのお姉ちゃんじゃないし、他の奴でもさっきみたいな事言うたら変なとこ連れて行かれるから絶対やめとき」 「……うん。分かった」 「素直でよろしい。ほな、帰ろう。近くまで送るわ」  よいしょとバッグを背負い前を歩き出すのを見て、やっぱり帰らせる作戦だったと心の中でぼやく。 もう、姉妹ごっこもお終いかもしれない。 人懐っこい彼との距離感を、詰め過ぎたのが間違いだった。  女子寮の門まであっと言う間に着いた。 陽気な山岡くんが他愛のない話で笑わせてくれるから、長い道のりが嘘みたいに短く感じた。 「おつかれ! じゃあ、頑張りや」    男子禁制の寮では門の中には入れない。 外側で手を振ってサヨナラの言葉を告げる。 「ありがとう! 山岡くんも気をつけてね」  “バイバイ”と言おうとして、“またね”に言い換えた。出来ればこの縁がまだ切れないようにと祈りを込めて。  すると手を振り返していた彼がタタッと走り寄り、 『言い忘れてたけど、次俺が“アオイ”って呼んでももう“お姉ちゃん”って呼ぶのは無しやで。“ナオキ”って呼びや』 ニッと歯を見せて笑う山岡くん。 「理想のお姉ちゃんにはなられへんけど、理想の彼氏やったら本気で頑張るわ。だから心決めたら呼び捨てしいや! ほな、また明日!」  返事を待たずに元気いっぱいに走り去ってしまった。 そうか、あれが私への告白なら、明日から呼び方を変えるべきだろうか。 でも、やっぱりもう少しお姉ちゃんでいて欲しいからーー。 “ナオ姉”って呼ばせてね。お姉ちゃん。              完
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