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髪の毛を乾かさずにそのまま玄関に向かい、サンダルに足を通して家を出た。
闇の飲み込まれそうな空に、ポツリと浮かぶ星は心細そうで月は雲に隠れてしまっている。
そういえば、澪さんとこんなふうに夜空を眺めていたことがあったっけ。
澪さんは自由人でわがままだけど、本当は寂しがりやで私のことやお父さんのことを本当に好きでいてくれた。
私にとって家族は澪さんとお父さんだけだ。
目を閉じて、幸せだったあの頃の光景を思い出す。
『小夜、澪さん、ただいま』
家に帰ってきてすぐに私たちの顔を見にきて、柔らかく笑うお父さんが好きだった。
『ねえ、小夜〜! また髪うまく結べない〜!』
すぐに私に甘えてくる澪さんがかわいくて、好きだった。
お父さん、澪さん。
どうしてどこにもいないの。どうして私だけ助かったの。
——どうして、あの日私は出かけたいなんて言ってしまったの。
事故なんて起きなければ、私たちは幸せに暮らしていられたはずだった。
ねえ、澪さん……傍にいるって言ったじゃん。ずっと一緒にいようねって笑ってくれたのに。
その約束をして私を抱きしめてくれた澪さんは、もうどこにもいない。
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