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「つーか、なんでひとりで歩いてんの。用事でもあんの?」
「別に、なんとなく」
「帰りたくなくて」という言葉を飲み込んだけれど、赤地くんには伝わったらしい。
「俺は学生で、実家暮らしだし、家に泊めてやることもできねーしな。ホテルなら一泊くらい行けるけど」
「馬鹿なの。行くわけないじゃん」
「いきなりガード堅くなったな。そんなに彼氏大事なんだ」
「……うるさい」
確かに前の私だったら、この誘いにふらりとのって一緒に過ごしてしまったかもしれない。だけど今は先生の顔が浮かぶ。
軽蔑されるのが怖くて、突き放されてしまったら崩れ落ちてしまいそうだ。……私は自分から離れようとしているのに。
「じゃあ、未弥たちのところでも行くか」
「え、なんで?」
この流れて未弥が出てくる理由がよくわからず、首を傾げる。
それにこれ以上未弥たちに心配をかけるようなことは避けたい。
「未弥や弥代なら多分お前のこと泊めるだろ」
「でも」
「あのさぁ、俺お前のそういうところイラつく」
赤地くんは私の腕を掴むと、不機嫌そうな面持ちで見下ろしてくる。
そうだ。彼はこういう人だった。私のことを好きだと言うくせに、かけてくる言葉は甘くはない。間違っていると思えばはっきりと伝えてくるし、何度も辛辣な言葉を向けられてきた。
……でもだからこそ、私は彼とずるずると関係を続けてしまったのかもしれない。変に同情することも、顔色をうかがうこともない。
傷つくこともあったけれど、偽りがない彼と一緒にいるのは楽だったことも多かったから。
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