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「遠慮して、迷惑かけないようにっていい子ぶんなよ」 「……いい子ぶってなんてない」 「そうか? 俺にはいい子ぶってるようにしかみえねーけど」 なにがわかるんだと睨みつけて、私の腕を掴んでいる赤地くんの手を振り解く。 「放っといて」 楽な分、言いたいことをぶつけ合ってしまう。お互い尊重し合う気もなくて、やっぱり私たちの相性はよくない。 眉根を寄せて、不機嫌そうな面持ちで赤地くんは口を開く。 「構って欲しいなら素直になれよ」 「は?」 思いがけない言葉に、大きな声が漏れてしまう。 「確かにお前は辛いことが起こって、今もまだ葛藤してんのかもしれねーけど、心の内を誰にも見せる気ねーくせに、それなのに不幸だって目に見えてわかる顔してんな」 「っ、そんなつもりない! 不幸な顔ってどんな顔!」 「その辛気臭い顔のこと言ってんだよ」 「赤地くんって人の気持ちとか考えて話さないところ本当嫌」 端から見たらカップルの喧嘩に見えるのだろう。 行き交う人の視線が痛くて、私は再び歩き出す。どうせついてくるつもりだろうし、それならひと気のない方で話したい。 「じゃあ、お前は周りの気持ちとか考えてんの?」 歩きながらも赤地くんから言葉が投げかけられる。 「お前のこと心配してる弥代とか未弥の気持ちは? 俺がどうしてお前を傷つけるってわかっててこんなこと言うのかとか、お前の彼氏がお前に向けて話す言葉の意味とか考えたことあんのか?」 「そんなの……っ」 わかるはずない。それに赤地くんにそこまで言われる理由がわからない。 だけど……彼の言う通り、弥代ちゃんたちの気持ちを私は考えていないのだと思う。それに先生の気持ちだって私は聞いていない。 澪さんに対する私の気持ちを知って、先生は一体どう思ったのだろう。そして本当のところ先生は澪さんに対してどんな気持ちを抱いているのだろう。 私はなにも知らない。聞こうともしていない。 本当は知るべきことなのに、向き合うことを恐れている。
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