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今日は夕飯の支度もしていないため、出前を取ろうかと当たり障りのない話をする。
注文をし終えてから会話が少しずつ途切れて、ああそろそろかなと視線を上げた。
「澪は君にとって〝家族〟だったんだね」
新條清の言葉に私は「そうです」とはっきりとした声で答える。
「血の繋がりはなくても、私とって澪さんはとても大事な家族でした」
「……そっか」
「清さんにとっては、どんな存在でしたか」
澪さんがこの家の人にとってどんな存在だったのか、それを聞いても私の中の澪さんが変わることはない。だけど、清さんの本心が知りたい。彼はなにと思って、澪さんを傷つけるようなことを言ったのだろう。
「僕にとってはさ、〝幸せになってほしい人〟だったんだ」
「え?」
「は?」
彼の言葉に私だけではなく、先生まで目を見開いて声を上げた。私たちの反応なんてお構いなしに新條清はほんの寂しげな表情のまま、話を続ける。
「だけど僕は、澪を幸せにはできない。……新條家は澪を苦しめるだけだから」
困惑して話についていくのが精一杯だった。だって、この人は澪さんに酷いことを言って突き放したはずだ。それなのにまるで大事な人かのように彼は話している。
「まさか、お前本気で澪のこと……」
「〝妹〟だなんて思ったことないって言っただろ」
それはつまり——
「き、清さんも澪さんのことを好きだったってことですか?」
なにも言わずに清さんが微笑んだ。それは無言の肯定だった。
そんな……だったら、澪さんは清さんから本気で思われていなかったと誤解したまま亡くなってしまったの? 愛されたいと泣いていた澪さんの姿が思い浮かんで、目頭に涙が溜まっていく。
それならどうして澪さんを突き放すようなことをしたのだろう。清さんに拒絶され、家を追い出されたことが澪さんの心に深く傷をつけたのに。
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