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「僕と澪の関係を知った母は、〝あの女と別れなさい〟って言ってきたんだ」
最初は清さんもそれを拒否していたそうだ。
澪さんをよく思っていない母に許されないことは最初からわかっていたことで、しかも父親の浮気相手の連れ子だ。父からも受け入れてもらえないことは、頭では理解していたらしい。
それでも清さんは澪さんを手放したくなくて、何度も両親と話したそうだ。けれど聞く耳は持たず、とうとう弟にまで知られてしまい、兄弟仲にも溝ができていった。
「そんなとき、母からもしも別れないというのなら、貴方にもあの女にもこちらが選んだ人と結婚させますって言われたんだ」
「……誰とだ」
先生の質問に清さんが〝公輔さん〟と低めの声で答えると、先生の眉間のシワが深く刻まれた。
「……そんなこと普通するか?」
「あの人ならするよ。身寄りもなく、可哀想な子どもを引き取ってあげる許可を出したのは私ですよって言って、笑っていたしね」
ふたりの会話からして、澪さんの結婚相手の候補に上がっていた人は、あまりいい相手ではないらしい。それに先生たちとお母さんの仲は良好ではなさそうだ。
なにも知らない私に清さんが説明をしてくれる。
「澪の相手に名前を挙げられた人は、母方の親戚の人で年齢も四十代で何度も暴力沙汰を起こして二度の離婚歴があるんだ。相当最悪な結婚相手だよ」
そんな相手と無理やり結婚させようとするなんて、そこまでしてまでも清さんと澪さんを別れさせたかったのだろう。
「それを防ぎたいのなら、きちんと別れて拒絶しなさいって母からは言われたんだ。母は本気で実行する人間だろうし、あの頃のなんの力もない僕にはどうすることもできなかった」
あくまで清さんにとっては澪さんを守るための方法だったのだと、暗い眼差しのまま当時のことを話してくれた。
「家がめちゃくちゃになったのは、本当は僕のせいだよ」
「……だけど、澪さんは自分から清さんに想いを告げたって言ってました」
澪さんにとって清さんは初恋で、ずっと特別な人なのだと幸せそうに話してくれた。
悲しい終わり方をしてしまったけれど、受け入れてもらえてふたりで過ごした日々は澪さんにとって本当に楽しかったそうだ。
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