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「本当なら僕が澪の想いを兄として拒否するべきだったんだ。だけど、それができなかった。……澪に好きだって言われたとき、自分の気持ちに嘘をつけなかったんだよ」
「嘘って……」
「ずっと好きだったから」
清さんが切なげな笑みを浮かべる。
飄々としている印象だった彼が、今にも泣き出しそうに見えて、想いが痛いほど伝わってきた。
記憶の中にいる澪さんの言葉が、ぽたりと振ってくる。
『キヨはね、あたしのこと遊びにくらいにしか思ってなかったんだよ』
『……好きだって言われたんじゃないの?』
『本心じゃなくても言えるでしょ』
澪さん……違うよ。
『両親に関係がバレたときも、キヨはあっさりとあたしを捨てた。妹だと思ったことは一度もないって言われたんだ。……でも、女として見られてたのかなって気がして、妹じゃないって言われたのは少し嬉しかったけど……結局拒絶と同じだよね』
澪さんの片想いなんかじゃなかったよ。
その言葉の意味は、ひとりの女性として想っていたってことだったんだよ。
『……一生の片想いのままだろうけどさ、でもさ……やっぱり好きになった人のこと憎めないんだ』
清さんも、澪さんのことが好きで、ふたりは本当は想いあっていて……清さんが澪さんにくれた好きだって言葉は嘘なんかじゃなかったんだよ。
両想いだったんだよ。
「今更こんなこと打ち明けても意味なんてないのにね」
「っ、よかったです……っ本当に」
涙が溢れ出てきて、服の袖で必死に拭う。先生も清さんもどうして私が泣くのかと驚いているようで、慌ててティッシュを箱ごと渡された。
「澪さんが清さんからもらっていた言葉は偽りなんかじゃなかったって知れて……よかったです」
清さんの言う通り、今更なのかもしれない。
もう澪さんは亡くなっていて、この声が届くことはない。
これは私のただの自己満足かもしれないけれど、それでもよかったと安堵して涙が止まらない。
だから、澪さん……私ももう言ってもいいかな?
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