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先生の言う通り、普通ならなんでそこまでして赤の他人の澪さんと家族になる選択をしたのかと疑問を抱くのだと思う。 それはたぶん……私のためでもあったのだと今になって思うことがある。 「きっと私は実母にいい思い出がないですし、温かい家庭を父は築きたかったのだと思います。それに澪さんも、自分が義母に辛く当られてきたからこそ、私と重ねていたんだろうなって……」 父はもちろん澪さん自身を救いたかったことには間違いないけれど、ふたりが私のことを想って結婚を選んでくれたのだ。 「父と澪さんは時々居酒屋で話をするような飲み仲間だったらしいんです。それで澪さんの事情を知って、その頃ちょうど母の私への虐待に気付いたらしく……デリケートな問題でどう私に接するべきか悩んだ父は澪さんに相談をして、それで私たちは会うようになりました」 いろいろなタイミングが重なって、私たちは出会って、家族になっていった。 たとえ、恋をして結婚をしたふたりではなくても、私たちの家族の間に愛情は存在していた。普通とは違った形でも、私たちは幸せだった。 「澪さんが恋をしていたのは、清さんだけですよ」 澪さんは清さんのことを忘れてなんていなかった。ずっと、ずっと恋をしたまま、大事に想っていた。 呆然と目を見開いている清さんが、一筋の涙を流した。 「私が話したのは秘密ですよ」 澪さんに怒られちゃうからと笑うと、清さんが顔を歪めて泣きながら笑った。 「本当……っ、僕も澪も……っ素直じゃないな」 想い合っていても結目ができない恋もあって、解けたまま時だけが流れてしまった。澪さんがいなくなってから、真実が明かされるのはとても残酷なことなのかもしれない。 私は神様とか天国とか地獄とか、幽霊だって信じていない。人は死んだらどうなるのかなんて、誰にもわからない。 けれど、それでも……どうか澪さんに伝わりますようにと願わずにはいられなかった。
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