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◇
澪さんが亡くなる少し前、澪さんがひとりじゃ寂しいと急に言い出したことがある。そのため、私の部屋でふたりで布団を並べて寝ることにした。
『お前なんて幸せになれないって言われたことあるんだけどさ、あれ嘘だったな』
『そんなひどいこと言ってくる人いるの?』
『お義母さんに言われた。だけどさ、あのとき……あたしもそうだろうなって納得しちゃって』
寝転がっていると、澪さんが私にくっつきながら穏やかな表情で笑った。
『でも、嘘だってわかった』
『なんで?』
『だって今、幸せだもん』
私たちしか世界にいないような静かな夜に、澪さんがぽたりと綺麗な涙を溢す。
『小夜がいて、静也さんがいて。泣いちゃうくらい幸せ』
照れくさくて、私もと返せなかった。あのとき、ちゃんと言えばよかったな。
私も澪さんとお父さんがいてくれて幸せだよって。
『きっとさ、静也さんは小夜を残していくのが怖いんだね』
『そうかな』
『小夜って寂しがりやじゃん』
『そんなことないし』
ちょっと強がってしまったけれど、私はお父さんに引き取られて澪さんと家族になってから、急に寂しがりになったかもしれない。
『ずっと苦しさに耐えていたでしょ。そういう人は寂しさに弱いよ』
『……じゃあ、澪さんも?』
『うん。あたしも』
澪さんはいつも明るくて強そうだけど、本当は泣き虫で甘えただ。だから、寂しさの弱いと聞いて妙に納得してしまった。
『だからさ、傍にいるよ。あたしがずっと小夜の味方。小夜が道を外さないように、目を光らせないと!』
『私は汚れてるよ』
『そんな人間いませーん。人は綺麗でも汚くもないの。そんなものに囚われて生きちゃダメ』
澪さん……私ね、本当はもう前を向く方法もわからなくて、全部どうだってよくなって、消えてしまいたかった。
だけど澪さんとの思い出が、全てを投げ出してしまおうとする私を引き止める。
言い訳ばかり探していたけれど、手のひらから全てがこぼれ落ちてしまう前に素直になってみよう。
もしもダメだったら、そのときは————慰めてね。
返事なんてくるはずもないのに、澪さん宛にメッセージを送った。
当然既読になることもない。二度とそんな日はこない。
だけど、それでも……私は背中を押してもらえているような気がした。
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