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「娘さんとはどう?」 「毎日話しかけるようにしてるよ。食事を作ってくれて、美味しいって褒めたら泣きそうになってた。……母親に作った食事を捨てられたことがあったらしくて」 どんだけ最低な母親だと言いたくなる気持ちをぐっと堪える。 どうやら離婚をしているらしく、娘さんは母親が引き取ったそうだ。 けれど家の中はぐちゃぐちゃで、娘さんを放置。そして気に入らないと暴力を振るい、体に消えない傷まで作ったらしい。胸糞悪い話に、あたしは顔を顰める。 それからあたしと彼は、居酒屋で会うたびに娘さんの話をした。 自分と少しだけ似た境遇だから興味をもったのもある。だからこそ、放って置けない。あれから会話は増えたらしいけれど、笑うことはほとんどないらしい。 「最初から親権を渡すべきじゃなかった。そしたら小夜はあんなに傷つくことはなかったのに」 「……だとしても、過ぎたことは変えられないでしょ。これからのことを考えないと」 父親だけだと限度があるかもしれない。 断られる覚悟で、あたしは提案をした。 「あたしが、娘さんの話し相手になろうか?」 最初は警戒はされるだろうけれど、同性の方が話しやすいこともあるかもしれない。 彼——静也さんが頷く。 他人の家に首を突っ込むなんて、本当はよくないことだとわかっている。 彼に特別な感情があるわけではないし、自分ができなかった心の修復をしたいだけの自己満足なのかもしれない。だけど、あたしにできることがあるのなら、必要としてくれるのなら、力になりたかった。 次の週末、あたしは水原家に訪れた。 出迎えてくれた娘さんは、暗い瞳でこちらを見つめている。 ああ、やっぱり。父親の隣にいる派手な女を警戒している。 きっとあたしのことを、父親の彼女だと思っているのだろう。 だけど嫌われることは慣れてるから。 あたしは笑顔で彼女に話しかける。 「はじめまして、小夜ちゃん。新條澪です」 これが後になによりも大事な存在になる小夜との出会いだった。 完
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