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「……やだ」
「だからやめただろ?」
「そうじゃなくて……離れるの、やだ」
縋るように背中に抱きつくと、先生に引き剥がされてしまう。私が一度拒否したことが、そんなにも先生にとって不快だったのだろうか。
不安になりながら見上げると、先生の大きな手が私の頬に添えられる。
「……子どもっぽいって思う?」
「かわいいなと思うけど」
「あっそ」
本気なのかよくわからなくて視線を逸らす。けれど、すぐに「小夜」と呼ばれた。きっとこっちを向けという意味だ。
「なに」
「そういう表情、すげー好き」
「そ、そういうことわざわざ言わないで!」
私が先生を求めて不安がっているのを完全に喜んでいる様子の先生に苛立って、頬に触れている手を軽く叩く。
「じゃあ、キスはやめとく?」
「それは……」
「嫌ならしないけど」
意地悪な大人には敵いそうもなくて、私は視線を逸らして「してもいいけど」と素っ気なく答えた。
唇に重ねられた温もりに浸るように、そっと目を閉じた。
触れるだけの優しいキスをしていると、ゆっくりと先生が私から顔を離す。向けられた眼差しは熱を帯びていて、喉を鳴らしてしまう。
先生は時々、こうして男の顔をする。
私のことを求めてくれているのだとわかり、胸がぎゅっと苦しくなって鼓動が速くなっていく。けれど、いつもはそれ以上進まない。ただ視線を向けられて、終わってしまう。
それはきっと私がまだ高校生だから。
だから今日もまた、熱い眼差しだけ私に注ぐのに先には進まない。離れていこうとする先生を引き止めるように、「待って」と声を上げてしまう。
「……せんせい、やめないで」
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