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少々戸惑いながらも足を進めていくと、玄関のところに和服を着た二十代くらいの男の人が立っている。
あの人が先ほどインターフォン越しに会話をした男の人だろうか。
はじめましてと口にする前に、顔を確認して驚愕した。
心臓がざわりとして、不規則なリズムで鳴り始める。
「せん、せい……?」
言葉を漏らしてしまい、しまったと思ったときにはもう遅かった。
私のことを見ようともしなかった男の人は、ゆっくりとこちらへ視線を向ける。
ほんの一瞬無表情で、そして眉を寄せたかと思えば、すぐに目を見開く。
「……え、水原?」
私の名前を呼ぶ声は、あの頃と変わらなくて柔らかい。
そういえば、先生の名前は……新條涼だ。
新條清から〝涼〟っていう弟も住んでいると聞いたけれど、先生と結びつかなかったのは、関わりが薄かったからかもしれない。
「あー……そうか、水原……あー……そういうことか」
こんな形で再会をするとは思いもしなかった。
けれど、特に思い入れなんてない。ただの中学の元担任。
少しの期間だけ教師と生徒として一緒に過ごしただけの人。
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