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目の前の男から、呆れたようなため息が漏れた。 「お前さ、おかしいよ」 さっきまで私を抱きしめていたはずの男が、顔を歪ませて心底見下したように見つめてくる。 「だいたいさ、こういうのやめたんじゃなかったっけ」 そんなこと口にしたっけと思いながら、私は唇を結んだ。 なにを言っても、理解はしてくれないだろう。 「またこういう心の埋め合わせすんの? そうやってさ、都合悪いとすぐ黙るよな」 それでもいいからと私を抱き締めたのは誰? 私も彼を頼ってしまったところもある。きっと身を委ねて甘えてしまいたかった。だけど、そんなことできる相手じゃないのだと痛感する。 「まあ、俺も俺だけど。だけどさ……そういうの自分の首絞めてるだけじゃねーの」 こちらの答えを待つことなく、無数の言葉が針のように私を突き刺して、己の中の正義がさも正論なのだと主張していた。 薄暗い部屋の中、開いたままのカーテンの隙間から白んだ空が見える。 この人の言う通り……馬鹿みたいだ。 くだらない。こんな時間の使い方。 でもまた朝が来た。眠ることなく、朝を迎えることができた。 「なんで平気そうにしてんだよ」 私の心を踏みにじるように目の前にいる男が、口角を上げる。 「〝あんなこと〟があったのに」 そんなことわかってる。 その言葉を吐き出すことができなくて、私は乱れた服を整えてから部屋を出た。 早朝の外気は刺すように冷たくて、息苦しい。あの人の声が聞こえてきた気がして、立ち止まる。 振り返っても、そこには誰もいなかった。
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