屋台戦争

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 夏祭り最終日、今日で決着がつく。俺は全身全霊で焼きそばを焼いた。注文が入ってない時は、うちわで焼きそばの香りを漂わせながら、呼び込みの声をかけた。  最終日はやはり客足が伸びた。次々入る注文に一心不乱に焼きそばを焼いた。俺は屋台戦争を最後まで気を抜かず戦った。  売上報告をして返信のメールを待った。片付けをしながら、星が輝く夜空に祈った。ペンダントを佳乃に。どうかお願いします!  メールが届いた。心臓が早鐘を打っていた。息を呑む。おそるおそるメールを見た。 『四角川祭りで屋台を運営しているみなさん。お疲れ様でした。売上高一位の方が決まりました。たこ焼き屋店主の斎藤様です。おめでとうございます! 順位は下に記載してあります。来年もよろしくお願い致します』  斎藤さんの喜ぶ声が聞こえた。俺は斎藤さんのところまで走って、煮え切らない気持ちを思いっきりぶつけた。俺の順位は昨日と同じく二位だった。 「斎藤さん、どうしてなんだ! 俺だって頑張ったのに」 「木島さん、悪いね。こんな時のために秘策を用意していたんだ」 「秘策?」 「知り合いの漁師から新鮮なタコを直送してもらったんだ。正直、こんなことをすれば、うちは大赤字だ。だけど、どうしても勝ちたくて、この方法を使うしかなかった」  俺はその話を聞いて重い足取りで公園に行きベンチに座った。辺りからは音がなく、俺だけが一人この世界から取り残されたようだ。  額を手で抑えながら、一雫の涙をぽたりと落とした。あんなに頑張ったのに、どうして、どうして。俺が悲観に暮れていると突然、声をかけられた。 「翔ちゃん、どうしたの? なんで泣いてるの?」  見るとそこには佳乃の姿があった。心配そうな目で俺を見ていた。俺は泣いている姿を見られてあわてた。 「いや、その、実は佳乃にプレゼントしたいものがあったけど、できなくなって落ち込んでいて」 「私にプレゼント? 何をプレゼントするつもりだったの?」 「佳乃が欲しがっていたアニメのキャラクターのペンダント」 「それはすごいね。もしかして、それを私にプレゼントするために翔ちゃん、いつもより頑張っていたのかな。なんでだろう?」  佳乃の問いかけに躊躇しながら、頬を赤く染めて消え入りそうな声で答えた。 「それは、好き……だからじゃないかな」 「翔ちゃんの馬鹿! その気持ちの方がプレゼントよりずっと嬉しいよ!」  佳乃の顔も耳まで赤くなっていた。何を話していいかわからなくて沈黙が続いた。胸がときめく優しい沈黙の時間が流れた。
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