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落ちてくる空の下
大学が面倒になったのは、いつのことだっただろう。もちろん籍は置いているし、自宅からの通学はきちんとしている。講義だって受けてはいるし、友達とは呼べないまでも多少のやり取りくらいならするやつもいることにはいる。
だが、正直わざわざ大学に行く意味を見失いかけている。ただ行って帰ってくる時間だけでもバカにならないし、行ったら行ったで周りには講義に出ず遊んでいるやつらが多くて、なんならそっちの方がよっぽど楽しそうに見えてしまう。もちろん講義だって履修したくてしたものだったが、後ろの席から聞こえてくる潜めた話し声が気になったり、今日に至ってはそちらに意識を向けすぎて講義の内容をだいぶ聞き逃してしまった。
別に、特別明るい展望を持って進学したつもりはなかった。だけど、あまりにも何もなかった。
僕と同じような――ただみんなが行ってるからくらいの理由で進学してるやつだってたくさんいるだろうに、どこでこういう差が生まれたのかわからない。周りのやつみんながみんな僕より楽しそうで、時折、突然叫びながら机やら椅子やらを投げつけてやりたくなる衝動が込み上げてくる――もちろん、そんなことできるわけもないけど。
だからというわけではない……とも言いきれないけど、とにかくその日、僕は初めて講義をサボった。出席の割合が一定以上ならほぼ確実に単位を取れるような科目だったし、仮に欠席しても講義内容はレジュメの丸写しのようなものだから試験で困ることもない――そのくらい『安全』なものでないとサボる気が起きない自分の小心さを忘れるにはうってつけの、よく晴れた夏らしい昼下がりだった。
大学近くのアーケード商店街を冷やかすでもなくぶらつくと、ファストフード店の窓辺に無表情で座るスーツ姿が目に入ったり、いつもちょっとした行列になる焼き菓子店が目に入ったり――普段なら雑多な背景として意識を通りすぎるようなものがいくつも見えた。
きっと歩いているほとんどが観光客なのだろう、所々に設置されている“古き良き商店街”を感じさせるフォトスポットに集まる人々を横目に、僕はただ当てもなく歩く。空がなんとなく重苦しく見えて、息苦しかった。
周りを歩いている人々が、よく大学で見かける『楽しそうなやつら』と重なる。そうすると僕自身も大学にいるときと同じようなつまらないやつに戻ったような気がして。
「……戻ろう」
なんだか惨めになって踵を返したときだった。
目の前に、ひとりの女の子が走り込んできた――その額からは、血が流れていた。
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