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 枕の上にのせていた頭を持ち上げて体を起こすと、障子の向こうの月明かりが少し部屋に漏れてきているのが目に入った。少し乱れた着物を着直し、布団から出る。  襖を開けると、昼間よりは少し冷たさを含んだ夜の空気が全身を包む。それを感じながら、彼は空を見上げた。  月が見えた。満足に欠けるところのなく、無理ない曲線で構成されている月。  肺にありったけの酸素を入れ、足の筋肉に力を込めると、木の縁側を強く踏みしめる。木がぎしぎしと苦しそうに音を立てた。  食いしばった歯の間から、息を吐き出す。周りで踊るべとついた空気も、もはや意識の外に飛んでいる。  タンタン、と小さな音を立て、地面を踏んだ。視界の端に映る景色が、霞んで見えるほど速く流れていく。  彼の脳裏には、一つの約束が張り付いていた。  やるべきことがすべて終わったら、迎えに行く。だから、待っていてほしい。その申し出を、相手の少女は喜んで受けた。迎えに来てくれるなら喜んで、と頬を上気させて。あの笑顔を、もう一度見たいと強く願う。  だから、今夜ですべてを終わらせる。彼には、そういう一つの決意があった。  
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